その昔、トンボも“釣る”時代だった?
その昔、私が小学生の低学年だった頃、私が住んでいた福島県いわき市の小名浜という所は、家の近くに沢山の溜池があった。学校から帰ると、友達とよくその辺りへ行って、クチボソという小魚やザリガニなんかを釣ったりして遊んだものである。そしていつも真っ暗になるまで帰らず、ドロだらけになって帰るとよくおふくろに叱られる、これがほとんど日課のようになっていた。 そんな毎日の中で、夏になるとよくやったのが“トンボ釣り”である‥‥‥。 |
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夏、夕方近くなると池の岸辺付近をギンヤンマが飛び回る。よく見かけるシオカラトンボやアキアカネよりももっと大型で、胸の部分が金色に近い色をしている、きれいなトンボである。金色に近い色をしているにもかかわらず何故ギンヤンマなのかは私には不明であるが。また、飛び回るという表現が正しいのかどうか、なぜならギンヤンマとか更に大型で黒い豹をイメージさせるようなオニヤンマは、ある一定のルートを回遊しているのである。 そのトンボを釣るのは、この習性を利用し待ち伏せして捕まえるのである。 |
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学校から帰ると、適当な長さの、というか長ければそれに越したことは無いが、細くよくしなる竹を見つける。普段は近くに小さな竹やぶがあり、そこで調達。それと、まぁこれも適当な長さのたこ糸。そして、10円の小遣いを持って、駄菓子屋へ。 駄菓子屋ではトリモチを買う。茶色のチューインガムのようなネバネバくっつくやつ。実際は鳥をとるためのもので、本当は狩猟法かなんかでこんなとこで売ってちゃいけないんだろうけど、とにかく当時の駄菓子屋ってのは、こんなもんまで売ってた。 トリモチは水につけておかばくっつかないので、水の入った小さな缶に入れてもらい、目的の池まで自転車なんかで行くわけである。 着いたら、早速竹の先端から買ってきたトリモチを指をなめてぬらしながら、薄く伸ばしてゆく。ある程度着いたら準備完了。しばらく様子を見て、ギンヤンマの飛行コースをチェックする。 2度同じコースを通れば、3度目も必ずやってくる。 そして、遠くからやって来るその姿を確認したら、予想されるコース付近を、竹の弾力を利用しビュンビュンと振って、竹のカーテンを張ってやる。運がよければ、見事にギンヤンマはトリモチの餌食となってしまうのである。 |
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これだけでは話は終わりません。話はトンボ
“ 釣り ”なのである。 このようにして捕まえたトンボですが、オスかメスかでは今後の展開が大違い。オスだったらもう一回やり直し。メスならば次のステップへと進めるのである。 |
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そうやって捕まえたメスのギンヤンマを今度は、持ってきたたこ糸に結びつける。ちょうど、胴体と腹(シッポ)の付け根あたりに。 ちなみに、オスとメスの見分け方は、シッポの付け根がオスは太く、メスは細くなっている。 それが完了したら、最初と同じく別のギンヤンマが回遊してくるのをジッと待つ訳である。 そして、チャンスが来たらそのたこ糸に結びつけたメスのギンヤンマを飛ばしてやる。ある時は大きく振り回したりして。 運が良ければ 『じじじじじ‥‥‥』 と羽音がして、オスのギンヤンマがそのメスについてくる。素早くたこ糸をたぐり寄せ、めだたくGET! おそらくペアリングしようとオスのギンヤンマがメスを目掛けてアタックして来るのだと思うが、これがなんとけっこう捕まえられるものなのである。 誰が考え出したか知らないが、今やろうと思っても当時あんなにあった沼も無く、当然ギンヤンマの姿なんかは見かけることも出来ず、竹やぶだってどこにあったか見当もつかなくなっていて、学校の帰りによく寄ってた駄菓子屋さんだって別の建物になってて‥‥‥、今思い出すと、当時あたりまえのようにやってた事が、こんな懐かしい思い出作りをやってたなんて思いもよらなかった、そんな時代の出来事だった。 |