関東私鉄ストーリー

お待たせいたしました。ご乗車ありがとうございます。

こんどは関東の方々にも満足頂きましょう。さぁ出発進行!!


 ●ゆりかもめの謎

「臨海副都心」というのは最近の言い方なのかもしれない。船の科学館がこの地に出来ていたのは今から20年以上も前の事だったし、その頃首都高湾岸線の東京湾トンネルが開通したのを覚えている。今は遊びスポットお台場や、まじめスポット有明が同居するエリア…という感じだ。

その臨海副都心へのアクセスといえば、クルマならレインボーブリッジか首都高湾岸線、電車なら新交通「ゆりかもめ」か、全通なってJR埼京線との直通運転が始まったりんかい線ということになろうか。

ゆりかもめって、あれは電車?それともタイヤがついているからバスの部類?正直言って難しい話だが、電車である。このようなゴムタイヤで走る電車は日本では「案内軌条式」と言うが、そのルーツははるかフランスのパリにある。

パリ地下鉄(一部の路線)は変わった点があって、普通のレールの横にゴムタイヤで走る部分がついている。これは電車の走る方向を普通のレールと車輪でガイドし、肝心の駆動力はゴムタイヤで行う…という二刀流なのである。後にこれを真似てガイド用車輪もゴムタイヤとしたのが札幌の地下鉄。なにしろ駅にはホームはあるがレールがない。もっともその頃こんな方式は日本には存在せず、電車にはレールがあって当たり前だったため、その時制定されたのが「案内軌条式」というものである。札幌の地下鉄に乗ると、電車なのに「ガタンゴトーン」がなくって違和感を覚える。(でもなんとなく聞こえてくる感じがするのは、空耳だろうか…)

その後神戸でデビューしたのが「ポートライナー」だった。小さな車体を連ねた、タイヤで走る自動運転の電車は新交通システムと言われるようになって、大阪市「ニュートラム」など、全国に広がりつつある。ゆりかもめも同じ方式を採用した。

平成7年11月に開業したゆりかもめだったが、新橋からゆりかもめに乗ると、走り出して直ぐに、ほんの数百メートル先に次の駅はあるものの、全列車通過するという事態がずっと続いた。ゆりかもめには快速も特急も存在しないのに。

その通過駅は現在の汐留駅だ。路線が出来て以来7年も経った平成14年11月2日になってようやく開業したのがこの駅で、地下鉄大江戸線との接続駅ともなっている。
ここはもともと旧国鉄汐留駅の広大な跡地で、沢山の線路をめくって、建物を壊して、すっきりと更地にした国鉄精算事業団が売却した土地であった。駅の開業が大幅に遅れた理由はただ一つ。工事中に遺跡が出てきたからである。


汐留駅を「通過」するゆりかもめ

一般に建物などを建てようとして土地から遺跡が出てきた場合、工事は即刻ストップ、土地の所有者の責任において発掘、調査をしなければならない。全て終わらなければ何も出来ないし、その費用は全部所有者持ちというオマケ付きだ。

何が出てきたのかというと、さらに古い「駅」。はるか昔の明治5年10月14日、日本の鉄道が初めて新橋-横浜間を開業した時はここが新橋駅だったのである。鉄道唱歌の「♪汽笛一声新橋を…」はズバリここの事だ。ちなみに横浜駅は今の桜木町がその場所。新橋駅は東海道線が今の東京駅まで赤レンガの高架線で延長された時に荷物列車専用の汐留駅になり、その後どんどん拡張されて元の新橋駅は埋められて新たな線路が敷かれたらしい。

それが…百年以上経って、ほぼ原形をとどめたまま旧汐留駅の再開発事業と共に「発掘」されたという。かつて機関車の向きを変えるために使われたターンテーブルや、ホームのあった線路の地盤などが出てきて、日本の鉄道創世期の全貌が明らかになった。

しかしそのようなものが今更話題になるというのは、埋められた当時は駅の遺構に文化的意義があるとは思ってもみなかったからだろうし、文明開花のスピードが速くて記録、資料すら残せなかったのだろう。また東海道線の基点が東京駅に移ったというのもその原因の一つかもしれない。
そして、荷物列車が全国へ向けて旅立った汐留駅は、トラック輸送や宅配便の進歩もあって衰退を辿り、国鉄と運命を共にした。使われていた荷物車も用済みとなり、鉄道輸送のスタイルを大きく変えるものとなった。

名実ともに日本の鉄道の出発点だった旧新橋駅が発掘されたことを重視したJR東日本は、この地にかつての新橋駅舎を復元し、その歴史を後世に残すべく整備を進めている。また信越本線の難所だった碓氷峠の麓、横川の「鉄道文化むら」でも積極的に鉄道施設・車両の保存展示を行っていることは、鉄道が只の移動手段には終わらず、一つの文化という位置付けにふさわしい…と広く一般から認知されたに他ならないようだ。


完全自動運転のゆりかもめは、実に正確に発進、停止します。ただしあまり速く走らないので「もっとキビキビ走れ!」という利用者の声もあるようですが…

次は、「レッドアローの謎」に続いて、今でも地方で活躍する電車たちを紹介します。

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