旅日記Vol.62  晩秋の東京   (全ての写真はクリックすると大きくなります) 2013.11.25 東京

旅のきっかけとなったのは、全くひょんなコトだった。

ANAの新鋭機B787-8が小松-羽田線にも投入されると聞き、サイトで就航する便を調べると、まずは夜の1往復から。いつ頃便数が増えるのかなと11月のタイムテーブルを調べると、朝のNH752便と夜のNH759便にスーパーシート設定がない。しかも機種はお決まりのB772ではなくB777となっている。
これは国際線用のB777-281ERが使用されるという証拠。ANAだけでなくJALも国際線機材を国内線で使用する場合、ファーストクラスもビジネスクラスも普通席扱いで飛ばすことが多いが、どうやらこの便も同じ扱いのようだ。早めに予約すれば国際線ビジネスクラスのシートに座れる。しかも沖縄に行って来てもマイレージはなお10,000マイル以上残っているので、また「いっしょにマイル割」で安くあげるコトが出来る。日帰りだがさっそく仕事のスケジュールと相談だ。

といっても、旅の目的はそれだけ??というと、地方では美術展に触れるチャンスに恵まれておらず、逆に東京では大小多くの美術館があり著名な絵画などが気軽に鑑賞出来る。開催中の展覧会を調べてみると、「パナソニック汐留ミュージアム」では『モローとルオー -聖なるものの継承と変容-』が行われていて、これを#2にプレゼントするコトにした。

はやる気持ちを抑え、予約を入れてみる。幸い往復共に空席たっぷりだが、いざ座席指定をと意気込んでみたら行きのNH752便のビジネスクラスは「予約不可」。既に予約で埋まっていたのか、それとも何かの理由でブロックされていたのかは判らない。でも普通席だって国際線仕様なら国内線より1列少ない3-3-3の9列アブレスト、その違いを体感するのもいいだろう。さて帰りのNH759便は…ビジネスクラスにも空席があり、しっかり窓側並びでキープ♪CLUB ANA ASIAのゆったりシートを体感するとしよう。

どうやらB787-8の国際線仕様機が増えたことでB777-281ERの運用にも余裕が出来たのだろう。小松から羽田についた機はソウル(金浦)と上海を1往復ずつ、再び小松へと飛ぶスケジュールが組まれているようだ。羽田空港の国際化が進んだ証拠でもある。ただ航空会社や関係機関は毎日機体の国際線/国内線の資格変更審査に忙しいことだろう。

当日は全国的に天気は下り坂。雨になりそうだったが台風よりはいい(笑)。あれはもう…正直コリゴリだ。

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小松-羽田線は現在ANA、JAL共に6往復ずつが飛んでおり計12往復。ただ両社共に似たような時間にダイヤを組んでいるため、時間に自由度があまりないのが難点。朝の羽田行きの便も同じでNH752便が7:50発JL142便が7:55発となっている位。しかも最近少しずつ時刻が早まってしまい、早起きを強いられる結果に。この時期になると暗いうちに起きだして支度を整え、家を後にしたのはまだ薄暗い時間だった。しかも早いうちから道は混んでるし。雨はまだ降ってこない。

空港で待っていた機体はもちろんB777-281ER(ex.JA710A)。アジア線用2クラスだ。比較的早期に導入された機体なので少々疲れが見えるのは仕方ないだろう。搭載されている機内誌は国際線用の「WIIGSPAN」。オーディオプログラムなどは別の冊子となっている。隣のスポットには札幌へ行くAIR DOのB737-54K。かわいいベアドゥ1号だ。

AIR DOの「ベアドゥ1号」が並んでいた カバーは国際線用のものを装備

この機体は個人用TVモニターを装備しているので、どれどれ…と思ったらインタラクティブモードはロックされていて一部のオーディオしか聴けなくなっていた(泣)。やがてドアクローズ、始まったのは久しぶりのセーフティインストラクション実演。画面には「非常用設備のご案内」とだけ写されていた。2基のPW4090が回転を上げていく。このエンジンは国内線用(PW4074またはPW4077)よりも推力をアップしたもので、ストレッチ型のB777-381(国内線用)と同じものだ。タキシングしてR/W24に正対、軽々と機は空へと浮かび上がった。

雨雲の影響でクライム中は少々揺れる。覚悟はしていたが意外にも早く雲の上に出てベルト着用サインも消灯、ドリンクサービスが始まった。ホットコーヒーをチョイスした。いつもながら雲の上で味わうコーヒーの味はまた格別だ。
ただし揺れもなかったワケではなく、水平飛行の間に一度ベルト着用サインが点灯したがしばらくしてまた消灯。やがて「皆様の左手に富士山がご覧になれます」とアナウンス。しかし雲の上に少し頭を出していた程度で、いつもよりハッキリは見えなかったのが残念だ。


個人用モニターがあるのに…

パワーが絞られ降下開始。晴れていればそろそろ房総半島辺りだと思われるが、あいにく雲の中だ。再びベルト着用サインが点灯、高度を落としていく。いつしか機はファイナルアプローチに入り。海が見えた頃は羽田空港は目前だが、国際線機材なので前方の風景は観られない。軽いショックと共にR/W34Lにタッチダウン。エプロンへと向かう。なおこの機は次に国際線フライトが待っているのでスポットは沖止めの、しかも到着口からはかなり遠い場所だった。もちろん乗客はランプパスでの移動だが、機もこの後トーイングカーに牽かれ、国際線ターミナルへと移動するのだろう。

朝ゴハンは第二ターミナル内でヒコーキを見ながらモーニングセット。こりゃ格別だな。

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まずは汐留へと向かうので、京急/都営浅草線で新橋へと向かう。駅では北総線直通の急行(京成車)が待っていた。京急線とはちょっと縁遠い、京成沿線の車内広告ばかりなのが面白い。高架化ですっかり様変わりした京急蒲田付近には少々驚きと違和感があったのは否めない。正月の箱根駅伝で数々のエピソードを残した国道15号線の踏切も姿を消した。たかが1つの踏切かもしれないが、大会運営関係者、京急だけでなく直通先にも調整を要した運行関係者、それに選手。また駅伝ファンにも永遠に記憶に残る場所だろう。

目指すパナソニック汐留ミュージアムは新橋駅を出てすぐ。ここで#2と一旦別れ、ボクは用事を片付けてから街撮りを楽しんだ。

旧新橋駅 双頭レール ツワブキと0哩標識

旧新橋駅は「汽笛一声新橋を〜」の場所。駅舎は意外と小さいが、なかなか重厚な外観を見せている。また黎明期の日本の鉄道に使われたのは双頭レールというもので、上下が同じ断面になっており、レールが摩耗すると上下をひっくり返して再利用できるというもの。

晩秋の新橋駅 街を行く SL広場はクリスマスモード

東京-品川間は新幹線と東海道線など在来線が並行して走っている。ちょうど曇り空だったのでモノトーンの矩形の中を、滑らかな流線型のフォルムをもつN700系が通り過ぎたシーンなど。烏森口のSL広場の主役、C11形蒸気機関車には、可愛らしい雪だるまが寄り添っていた。


赤レンガの高架線と高層ビルの狭間

山手線・京浜東北線が走るレンガ造の高架橋も魅力たっぷり。ほの暗い高架下や古い部材がもつ表情も被写体になる。高架に収まる店舗、映画館。昭和の雰囲気が漂ってきそうだ。

高架下の一角 首都の交通を支え続けて 今も残る昭和

#2と合流、京橋でも用事があったので、地下鉄銀座線で移動する。向かいのホームには新車が入ってきたが、ボクが乗ったのはベテランの01系。ちなみに新車の黄色はレモンイエローに近く、旧型車が走っていた頃はもっとオレンジがかっていたように記憶している。むしろ以前の名古屋市交通局の小さな電車を思い出す。

少し歩いて東京駅八重洲口へ。昭和29年完成の駅ビルは姿を消して久しく、新しい都心の玄関は現在も工事中。商業施設は既にオープンしており、地下にある「東京ラーメンストリート」にあった牛タン塩ラーメンのお店でお昼を取ることに。どの店もお決まりの行列だったが、唯一この店だけがスグ入れた。柔らかな牛タンも美味しかったが、それ以上にスープがとても旨くてつい後を引く。ただ刻みニンニクがたっぷりのっているので、午後は客先へ…というのは無理だろう。
同じく地下にはアンテナショップなど、つい長居してしまいそうなショップがいっぱい。外国からの観光客も多かった。

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さあ鉄道ファンならずとも一度見ておきたいのが復原成った東京駅赤レンガ駅舎だ。その威容に改めて感嘆。駅前広場がなおも工事中なのが少し残念だが、赤レンガ駅舎の魅力はそれを補って余りある。


堂々復原成った東京駅赤レンガ駅舎

かつてこの場所が日本の玄関口に決まった時は、こんな大きな駅舎ではなくパーツを組み合わせたような、小じんまりとしたものが計画されたという。しかしそれでは「東京駅」の名に恥じるのではと計画が再考され、100年近く経った今でも通用する堂々たるものが出来上がった。
現在東京駅は大きく分けて南口、中央口、北口がある。ところが戦後しばらくまでは空港のように乗降が分けられ、南口は乗車口で各等待合室やレストランなども設けられていた。中央口は中央線・山手線の通称「電車ホーム」乗降口だったものが拡張されて現在に至っているが、車寄せのある正面部分は皇室専用乗降口の名残。北口は降車口だったので南口と違い待合室がない。そのため東京駅赤レンガ駅舎のプランはシンメトリーとはなっていないのだ。

かつての皇室用車寄せ 懐かしい屋根が蘇った 柱の陰から…(笑) 天井を見上げたら

太平洋戦争で駅舎は3階部分と南口、北口の大屋根を焼失、大部分が2階建てになり大屋根はディテールを損ない簡素な形態にされていた。最近までそれが当たり前の姿だったが、こうして復原されたのは感慨深いものがある。天井の装飾など、かなり苦労した話は有名だ。
また駅舎には「東京ステーションホテル」も併設されている。格調の高さが感じられ、一度泊まってみたいなあと思う。近くで電車を眺めながら旅への想いをかきたてて…なんかワクワクしてしまう。ただし中央線ホーム重層化工事の時は騒音に悩まされたとか。

南口の改札口 100年の時を超えて

写真をモノクロにしてマイナス補正、かつコントラストを高めに仕上げてみた。創建当時、こんなカンジに写ったのだろうか。不思議な魅力を感じる駅だ。オールドレンズで撮ってみたい衝動にかられる。

東京駅前は江戸時代、地方の藩の江戸屋敷がいくつもあったところ。明治の世になり屋敷は取り壊され軍の用地となっていたものが払い下げられたという。赤レンガ駅舎が出来た頃はまだ周りにはビルどころか草むらさえあったといわれているが、旧財閥系のビルなどが林立、今に繋がる繁栄の基礎を築いた。
戦後、建築基準法の改正により高さ31m規制が撤廃され、高層ビルが建てられるようになる。俗に言う三菱系の「一丁ロンドン」は惜しまれつつ姿を消したが、近年はファサードの意匠を残そうという声が高まり、東京駅前のビル群はかつての姿を残しつつ高層ビルに生まれ変わる例が多い。

日本工業倶楽部 新丸ビル 東京中央郵便局「KITTE」

その中の一つ、最近オープンと同時にいろんなショップが入り話題を呼んでいる東京中央郵便局、通称「KITTE」へ行ってみた。以前の建築の前1スパンだけをそのまま残しその後ろに高層のビルを増築した格好だ。中は当然郵便局もあるが、ショップゾーンは大きな吹き抜けを中心に構成され、しかも都市建築の保存と再生が具現化されている。

大きな吹き抜けが目を引く ショップが見通せて解放感も

KITTEの中にあるショップはどれも興味をそそるお店ばかり。気になったのはオシャレなステーショナリーグッズのお店や、キッチン関連のお店など。ちょっと気の利いたものが欲しいなあと思ったら簡単に手に入るのは正直、羨ましい。もっとも場所柄、〒(郵便)マークの入ったトートバッグとかマグカップなども面白いところ。
最上階の6階は一部が屋上となっていて、東京駅赤レンガ駅舎を見下ろすコトも可能。また行き交う電車を眺めながら時間を過ごすのもいい。


新幹線、山手線…ボクの原風景がそこにあった

電車はすっかり変わってしまったが、子供の頃は東京へ来ると、ひっきりなしに行き交う電車はボクの心を魅了した。その頃東海道線の電車は郵便・荷物車が先頭を切り、14・15番線は夕方になると九州を目指すブルートレインが次々と発車した。今、そのホームは新幹線に取って代わられ、ブルートレインも姿を消して久しい。新幹線は0系ばっかりで変化に乏しく、あまり好きではなかった。あれから●●年、東京駅は大きく様変わりした。

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黒塗りのクルマが似合う 時代の移り変わりを残して

丸の内に残るレンガ造の建築。「レトロ」という言葉にまとめてしまうより、歴史を残しながら現代に生きているコトは称賛に値するだろう。その温かみはクールな印象の現代建築とは一線を画しながらも調和している。

そのまま少し歩いて皇居前の広場へ。いつも電車の窓からチラッと見ただけで、ゆっくりさんぽなんてしたコトがなかったなあ…。

和田倉噴水公園から見た丸の内ビル街 江戸城巽櫓

曇り空の晩秋の東京。そろそろ空も暗くなり始めた。ただでさえ短い秋の夕暮れ、気がつくとビル街の灯りがちょっと暖かく感じた。夕方の和田倉噴水公園は観光客の他は人が疎らだったが、周りは日本を代表するオフィス街、お昼など多くの人が憩いのひとときを求めているんだろう。

大きな街路樹 和田倉噴水公園の花たち 皇居前の表情

夜の帳が近づいてきた。今回は新宿にも渋谷にも行かなかったが、普段金沢でも楽しんでいるカメラ片手のさんぽを、ここ東京でも楽しむコトが出来た。またこうしてスナップ写真など撮りながら街の再発見をしたいものだ。


皇居 坂下門

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帰るにはもう少し時間があったので、神保町の書店街へ行くことにした。鉄道図書の聖地「書泉グランデ」にも行ったが、今回たまたま見つけた交通関係図書の古本屋さんで、かなり前に失くした鉄道模型の雑誌バックナンバーを発見!!もちろん購入したのは言うまでもない。

ちょっと早めの晩ゴハンは今人気復権のナポリタンの有名店もあったが、ガッツリいきたいので…と思ったところに炭火焼ステーキのお店「アルカサール 神保町店」を見つけ、ここでハンバーグと決定。オープンキッチンで焼かれた100%ビーフのハンバーグはソースとの相性もバツグン、歩き疲れた身体にはいい補給になった。おナカもいっぱいになって、そろそろ帰る時間が近づいてきた。神保町から都営三田線、三田で都営浅草線に乗り換えたらちょうど羽田空港行き急行が来た。ちょっと疲れたネ。電車の中ではちょっとウトウト…。


羽田空港第二ターミナルは、すっかりクリスマスの装い

帰りの小松行きNH759便はボーディングブリッジからの搭乗。スポットにはB777-281ER(ex.JA708A)が既に待機していて、程なくボーディング開始。今度は国際線ビジネスクラス、CLUB ANA ASIAの座席を堪能だ。ひ・広い!!。シートが広いのは当然として、前席との間隔なんてJRグリーン車なんて遠く及ばない位。機内誌を取ろうにもうまく届かない位だ。

ゆったりしたシート 足元がすごく広い

ほぼ定刻にプッシュバックされ、R/W16Lから離陸。KANEK2 RNAV DEPARTUREでクライムして一路小松へと飛んでいく。シートには電動ランバーサポートもあるので、きめ細かな調整が出来るのが嬉しい。AVシステムはやはり一部オーディオだけだが、ちょっとだけリッチな乗り心地を味わえた。

短い水平飛行が終わり、小松空港へはHIMRO RNAV ARRIVAL。時折窓の外を雨粒が流れていくが、地上は降っていないようだ。軽いショックと共にR/W24にタッチダウン。CLUB ANA ASIA初体験のフライトはあっけなかった。スポットインしてCAさんのアナウンスが「前方プレミアムクラスのお客様から先に…」。この便は全席エコノミーなのに(笑)。クセというものはなかなか抜けないものだと思った。

晩秋の東京。今までとは違う東京の旅。なんか大人の旅を満喫したような、そんな気分で帰宅。

取材日 2013年11月25日 
カメラ  Nikon D3100
OLIMPUS XZ-1
レンズ   TAMRON 18-270mm F/3.5-6.3 DiUVC PZD
i.ZUIKO DIGITAL 6-24mm F1.8-2.5