Layer:03 PSYCHE


●第3話です。今回も街の喧騒から始まりますが、前回の引きがあるので、このカットの中にはクラブ「サイベリア」のシーンが出てきます。店の前に止まっているパトカーの群れは大きくなった騒ぎを表わしています。「玲音って子、聞いたことあるでしょ、ワイヤードのレイン・・・」というモノローグと一緒に流れるシーンでは、ありすが玲音を半ば抱くようにして歩いてきます。Layer01でも述べましたが、ありすの「姉」的な行動は事ある毎に現れているようです。

 玲音のアップでサブタイトル画面に切り替わりますが、その顔を照らし出すパトライトの赤い灯りは何かを予感させるかのようでもあります。

●警察署で玲音が尋問を受けるシーンです。背景にはガラス越しに心配そうに見ているありすが映っています。警察署の外観とサイベリアでのシーンがフラッシュバックのように現れるシーンで始まるのは、玲音がそれを供述しているのでしょうか? しかし、刑事のセリフからすると、玲音はほとんどしゃべらなかったようです。ということはこのフラッシュバックは玲音の心の中での回想ということでしょうか。

 ここではのちのち物語の設定がどうなっているかの疑問を生み出すことになった「こんな時間に誰も電話に出なかった岩倉家」という状況が述べられています。また、刑事は「岩倉玲音」について調べたらしいので、岩倉家が少なくともデータ上では存在していることになっているのは確実のようです。これについて

 A.岩倉家はワイヤード上のヴァーチャルな存在なので、リアルワールドの岩倉家にかけても誰も出ないのが当たり前である。しかし、ワイヤード上の存在ならばなおさら通信環境に関しては密接に繋がっており、電話に出れないというのもおかしな気がします。

 B.玲音に孤独感を与えるために、わざと電話に出なかった。玲音の両親が橘総研の関係者であることは、のちにほぼ確定的になりますが、彼らは玲音にワイヤードとリアルワールドの垣根を取り払わせようとしています。このために玲音がすべてを「繋げてしまいたい」と思う方向に向かわせたいのなら、ありうることでしょう。岩倉家がヴァーチャル、リアル、どちらだったとしても。

●リアルワールドから遊離しているかのように無口になっている玲音に、ありすが駆け寄ってきます。ひざに置いた自らの手に重ねられた、ありすの手を見て、玲音は「あ、・・・あ、・・・り、・・・す」とつぶやきます。玲音は何を言いたかったのでしょうか。私はありすが置いた手の体温を感じて、リアルワールドとワイヤードの境目に意識を飛ばしていた玲音がリアルワールドに戻ってきたかのように感じました。このすぐあと、ありすは母親らしき人物に呼ばれてから、玲音にひたすら謝り「あした、明日話そうね」と言い、去ってゆきます。ありすが去った後でもう一度、玲音は自分の手を見つめて「あ、り、す」とつぶやきます。

 A.玲音は今までこういったスキンシップをされたことがなかったので、驚いた。

 B.いままでありすや他の友達も含め、他人はあたかもホログラフでもあるかのように感じていたが、あくまでリアルなものであることを実感したため、とまどっている。

●パトカーに送ってもらい、自宅に帰ってきますが、家にはだれもいません。パトカーのいるシーンには「斑点」はありませんでした。両親の寝室もやはりもぬけのからです。自室に入るとナビがすでに起動したままになっています。「電話に出なかった」理由がBならば、これは玲音をよりワイヤードに近づけるための策略でもあったかもしれません。

 玲音はナビの前に座ったまま、うたたねしてしまいます。ふと目が覚めて、もう一度、居間や両親の寝室を見に行きますが、居間は誰もいません。寝室の方は絵として出てきませんが、落胆した玲音の表情からすると、いなかったのでしょう。

 再び自室に戻るとナビに向かい、メッセージの確認を行いますが、何もありませんでした。もう寝ようと、ナビに「おやすみ、ナビ」と話しかけ、ナビは「おやすみなさい、レイン」と答えます。このとき玲音は何かを感じたように振りかえりますが、何を感じたのでしょう・・・。ナビの画面はただ光っているだけでした。

●着替えたのは例の「クマパジャマ」です。孤独を覆い隠すかのようにフードをすっぽり被ったままベッドで寝入る玲音でした。

●朝になり、目覚めた玲音は階段を降りてゆきます。ダイニングキッチンには母親が洗いものをしており、食卓には朝食が用意されています。「おかあさん・・・昨日の夜って」と玲音が聞きかけますが、母親は何もなかったかのように無表情に振り向いて、「なに?」というだけでした。

●登校するために玄関を出る玲音ですが、ここには赤い「斑点」があります。いつもの登校風景ですが、今回は途中に大型の乗用車が一台止まっています。すべての窓はスモーク張りになっており、赤い光点が中を動いています。MIBの車のようです。電車の中では「電波声」が聞こえてきます。「れいん、れいん、ひとりじゃない」と。このタイミングは、まるで玲音の孤独を見透かすかのようですね。

●教室では皆が集まって、サイベリアでの話で盛り上がっています。玲音に最初に気付いたのはありすでした。ありすは玲音の元へゆこうとしますが、まわりは離してくれません。結果、二人はアイコンタクトするのですが、だんだんとこの二人が近づいていっているのをあらわしてもいるのでしょうか。

●授業中。ワイヤードから情報の侵食があります。プシューケーに関する情報と四方田千砂の意識です。あと、先ほどの電車の中での声と同じような声で「玲音は誰、玲音は誰」と。

●下校風景。シューズロッカーの前でたむろしている玲音・ありす達。ここでありすは「人が死ぬのを見たのに、作り事のように感じている自分達」についての問題提起をします。このことから、ありすは非常に「まともな」神経を持っている、いえ、まともじゃなくなっている自分達の神経を疑う頭を持っている人物であることがわかります。

 玲音のロッカーに茶封筒が入っています。中身はプシューケ・プロセッサです。ロッカーのある場所は外に面しているので、誰でもいれることが可能で、誰が持ってきたかは不明です。MIBかもしれません。この時点で玲音はこれがなんなのかは理解していません。

●帰りの坂道です。やはり「斑点」は存在しています。輻輳が鳴り響き、玲音は「プシューケー」とつぶやきます。たぶんワイヤードからの情報が玲音にプシューケーの何かを教えたのでしょう。

●濃い青を基調としたマーブル状のバックに電線の画像。ワイヤード内のやりとりがモノローグ調に流れます。内容は

●玲音の部屋。ナビの「メールが届いています」との声がすると同時に、父、康雄が入ってきます。最初は機嫌がよかった康雄ですが、玲音はプシューケーを康雄に見せ、たずねると、とたんに口調に抑揚がなくなり、「知らないよ」と部屋を出てゆきます。この変わりようから彼はプシューケーを知っていると判断できます。

●意を決してサイベリアへとプシューケーを調べるために出かける玲音ですが、門を出ると同時に、近くに止まっている大型の乗用車に出くわします。これは朝見たものと同じで、MIBが二人乗っているのはレーザーポインタの光が二つ、前部の座席に見えることからも明かです。朝は1つしか点灯していなかったので、最低一人はいたのが確認できますが二人ともいたかどうかはわかりませんでした。このシーンに「斑点」はありません。

●サイベリア。入ってきた玲音にここのDJであるJJが声をかけます。彼は以前から玲音を知っているようです。彼が言うにはいつものここにあらわれる玲音はもっと大人びた格好で現れるようです。たしかに第2話に出てきた「もう一人の玲音」はかなり大人びた服装でした。さらに、最近しばらく来なかったと彼は言っています。「またレイヴやるからオルグ頼むぜ」とのセリフから、JJの要望でダンスパーティの主催を行ったりもしていたようです。のちのタロウのセリフから考えるとこれも彼らが「そう思いこまされていた」だけなのでしょうが。

●玲音がはじめてまともにタロウ達と会話を交わします。玲音はプシューケーを彼らに見せて尋ねるのですが、最初タロウ達はこの玲音とワイヤードの玲音を結び付けてはいなかったようです。途中でタロウが玲音に気付き、鋭い目つきに変わります。タロウは玲音に「何たくらんでるの」と、言い放ちます。この様子からするとすくなくともこの時点でタロウは玲音については大した事は知らないのでしょう。ここでタロウが「ワイヤードの玲音とでーとしたい」と言ったとき、一瞬「変わる」かに見えましたが、タロウはあわてて「じょ、ジョーダン」と言って、去ってしまいます。この慌てぶりや「いっちゃってる」との表現からすると、この時点で「ワイヤードの玲音」はかなり凄い存在として知られているようです。

●美香が家への坂道を登ってきます。途中、停まっているMIBの車を追い越します。赤い「斑点」は車の影にも1つだけありました。岩倉家玄関にははっきりわかるだけあります。玄関にはMIB二人が立っており、美香は「ウチにご用ですか? どなたですか?」と尋ねますが(この対応を見ていると美香は家庭内での生意気なそぶりはどこへやら、まともな対応のできる普通の娘である一面がみられます)、MIBは「あなたは、私達と会っていない。なぜなら、私達は今、ここにいないからだ。」と答え、立ち去ります。

 A.岩倉家はワイヤード上の存在であるので、私達の肉体はここにない。だから私達はここにいないことになる。それゆえあなたは私達と会っているはずがない。

 B.MIBは戸籍上も存在しないことになっている秘密工作員のようなものである。それゆえ、存在していないはずの人間にあなたは会うはずもない。

●家に入ると美香は「ママ、今度来たらぜったい警察呼んでよ? 聞いてる? ママ、」と母親に訴えます。このことから美香はMIBについては何も知らないことが判ります。逆に母親はこの訴えにすら耳を貸さないところを見ると、彼らについて知っていると見るのが妥当でしょう。

●二階に上がる美香。玲音の部屋のドアが少し開いており、ふと中を見た美香は、下着姿でナビをばらしている玲音を見、「なにしてんのよ、玲音・・・」と問いかけ、入ってゆきます。玲音の答えは「静電気がまずいんだって、服は脱いじゃった方がいいらしいんだ、」です。美香は突然の妹の変貌にあきれ、「ばっかじゃない・・・」とつぶやきをもらします。

 次の瞬間、ノイズのオーバーラッブと共に玲音がだぶって見え、ノイズに重なっている方の玲音は「にこぉっ」と笑って「お帰り!お姉ちゃん!!」と言います。この玲音がどう言う状態なのかは今一つ決め手にかけます。もしかしたら玲音が「なりたかった自分」なのかもしれません。

to B continued


 いよいよ物語が展開しはじめました。といってもまだ本当に始まったばかりで伏線がちょっとだけ繋がって、また新たなる伏線が出始めたというところでしょうか。解釈を主眼にしているため説明では実際の物語とは情報が前後して出てくる場合もありますが、これは何度か見返している内に少しずつ理解したという状況を追っていっているのでご容赦下さい。ではでは。


戻る