「美しい嘘」森崎偏陸(寺山修司義弟)
「寺山修司記念館」が青森県三沢市に7月27日にオープンする。
数年前、母寺山はつが所蔵していた遺品(?)を全て三沢市に寄贈した時、僕は正直「やっと寺山の呪縛から解放された」と思い込んでいた。デザイナーの粟津潔先生に全てをおまかせ出来れば、彼の若いブレーンの手で、僕の思いもつかないような次々世代の為の次世代によるとてつもなく、素晴しい「記念館」が創立されるに違いないと期待に胸をふくらませていたのだ。
ところが、あにはからんや、寺山をよく知る人達の手でこそ「記念館」は創立されるべきだという事になり、僕もその一員に成らざるを得なくなった。そこで、限定されたイメージを「寺山」には持たせたくないので、何もない空間にしようと提案したが、私立の公共機関がOKするわけはない。演劇実験室「天井桟敷」的に、市街をも組み込んだコンセプトを、という事で初めてみたが、外に開かれた建物はそう簡単に創れるものではなかったのだ。
生原稿や写真、新聞記事等に、何年何月何日と正しいキャプションを付けてどこに寺山スピリッツがあるのか!? 全部「嘘」のカッコいいキャプションを付けるべきだと言いはったがNG。ならば、個々が「嘘」なのではなく、記念館全体が「美しい嘘の塊り」なのだというコンセプトを僕個人の中に持つしかなくなった。
今回上映される映像は、そんな僕個人の思いを込めて編集した「寺山修司記念館用映像ソフト」の全てである。
10種類の映像はそれぞれ、机の上に投影されたり、大きく壁に投影されたり、小さなビデオモニターで再生されたりするので、上映会の形でしっかり見てもらえるのは、とてもうれしい。
ただ、映像作品として完結しているものではなく、展示されている物達と呼応することではじめて存在する映像群なのです。
少し遠いですが、夏休み等を利用して、ぜひ「記念館」でもう一度、展示品を見ながら映像を確認していただきたく願います。
8月11日頃から10日間、僕が記念館の案内役を務める予定です。
敷地面積5000F、延床面積 832Fの記念館は、上空から見ると「柱時計」を想像させるデザインになっているのです。
「寺山修司記念館」の電話番号は0176-59-3434です。
山崎コメント
●VOL57 1997 8修司創造
「(寺山修司記念館展示用映像ソフト)」 森崎偏陸 1997 VTR→レーザーディスク 120分
青森県三沢市に1997年7月に開館した寺山修司記念館。そこで館内展示用にバラバラに映像展示されているものをいっぺんに上映してしまえという企画。だから1本の映像作品というわけではないのでタイトルはない。残された映画や舞台記録映像のフッテージ、関わりのあった人へのインタビューなどで構成されている。他で「それでは」と上映できるシロモノではない。上映していて「へー」と思ったのは、寺山さんが菊花賞の競馬中継のゲストでテレビに出た映像に、観客の多数を占める若者から「ほー」という声が上がったことだ。ワタシの記憶ではそんなふうに寺山さんがテレビのゲストとして出ていたことは記憶にあるのでなんともないが、若い人たちには新鮮な映像だったらしい。