チラシ裏文章

「闇よりもリアルに」山崎幹夫
 ダーク・アニメーションあるいは闇のアニメーション。夢の最も深いところから湧き出してくるイメージ。それは時に実写の映像よりもナマナマしかったりするものだ。今回の上映はそんな感触を孕む作品を集めてみた。
 堀川真紀子と堀川真理子は一卵性双生児の姉妹。『マシーンの色』『発色のカオス』は写真とアニメを合成した作品で、流麗な構成が記憶の脳内運動を鮮やかに描き出している。『VOYOU』は小品で可愛らしい作品だが、ここに流れる濃密な闇の感触は飛び抜けたセンスを感じさせてくれる。
 新谷尚之の『納涼アニメ電球烏賊祭』は巨大から極小への自在な展開が素晴らしい。アニメでしか成し得ないセンス・オブ・ワンダーの世界だ。彼はこの作品を描くのに3年の歳月を費やしたと言う。
 辻直之の『夜の掟』の湿った夢想も傑出している。カンバスに炭で描き、消してまた描いていくという手法は、失敗したら取り返しのつかないものであり、しかしその残像効果のもたらす映像は突出した成果を生み出した。
 森村繁晴の『Q氏の顛末』は「お兄さん」と呼んでついてくるグロテスクな怪物につきまとわれるという作品。悪夢の感触を見事に映像化している。『ゑびす夜話』は今回の上映が初公開。
 原田浩の『二度と目覚めぬ子守歌』はロンドンのアンダーグラウンドシーンで巡回上映され、多くのジャンキーたちをバッドトリップに叩き込んだ傑作アニメ。セル画アニメでありながら、内容は怨念と破壊の怒濤の大爆発だ。作者はこの当時『どらえもん』の彩色を仕事としていたと言う。悶々たる鬱屈が、まさにどらえもんの腐乱死体を見せつけられたかのような衝撃で迫る。
 岩井天志の『独身者の機械』はこれが初公開となる人形アニメ。マッドサイエンティストらしき怪異な老人が実験室で美少女アンドロイドを改造する。美少女人形フェチにとってはタマラない人形の特筆すべき出来もそうだが、古機械フェチもムンムンしてしまう錆びた機械の群れがいい。さらにはその軋む音などの効果音もよく出来ている。

山崎コメント
●vol52 1997 3ダーク・アニメーション
 ラ・カメラ初のアニメオンリーのプログラム。アニメ作品を体よく解説するコトバをワタシは持っていないので、各作品の解説はパス。ただ「納涼アニメ電球烏賊祭」と「二度と目覚めぬ子守歌」については、かつてラ・カメラで上映したことがある。このプログラムはなかなかよいと自負するので、ぜひパッケージで上映してもらいたいと思う。上映会タイトルの「ダーク」とは、病にも似た夢の深さのことでもある。かわいいだけのヘタウマアニメはあまり観たいと思わない。要はイメージの冒険が、どれほど危険なところまで進んでいるかなのだ。もっともっとイメージの病原菌を撒き散らしてもらいたい。そう思っているワタシを満足させてくれたのが以下の作品群なのだ。そして私見で言えば、最もダークさの強力なのは堀川真理子「VOYOU」である。
「オイノモリ」 田中彩子 1996 8mm 4分
「納涼アニメ電球烏賊祭」 新谷尚之 1993 8mm 5分
「Qの顛末」 森村繁晴 1995 8mm 4分
「ゑびす夜話」 森村繁晴 1997 16mm 6分★
「マシーンの色」 堀川真紀子 1995 8mm 5分
「発色のカオス」 堀川真紀子 1996 8mm 6分
「VOYOU」 堀川真理子 1995 8mm 3分
「夜の掟」 辻直之 1995 8mm 7分
「消えかけた物語たちの為に」 辻直之 1994 16mm 10分
「二度と目覚めぬ子守歌」 原田浩 1985 8mm 27分
「独身者の機械」 岩井天志 1996 16mm 32分★