チラシ裏文章
(作者・藤原章の要請により、特殊な構成になっている。画像を参照しつつ以下の藤原による元原稿をお読みください)
『人糞作戦』は当初『イージー・ライダー』みたいな格好良いバイク物を狙ったが、撮影の吉田聡が「血が滾ぎってへんからやってられへん」と云うので急遽、浪花節をブチ込んだ。
 尤も出演者でバイクを所持している奴はおろか、原付免許すら取得しておらず、端から無理な話ではあったが…。
 時代劇俳優の清水知徳(33)(『天と地と』『ジパング』)を吸引したからこそ獲得し得た奇矯なキャラクターは大勝利となった。
 さよならCPよりもっと前に強烈なCP物が存在
 娑婆に出てから暫くすると、共同製作の山内尚人から「他に云わないでネ」と耳打ちされたのが『米屋』の原動となる。
 寝たきりの小さな主人公が、お色気ムンムンの看護員に身体を洗浄されてると、それまで使い用も無かった黒芋が大きく立ちっ放しになった為、文部省から上映に先立ち、アノ部分をカットするか否かで一悶着あったと聞く。
「チンポ切るなら俺の首切れ!」
 と云う作家魂にホレた本誌記者は、是非観たいと懇願するも虚しく「今は娘も年頃なんで…」の弁舌に、昭和を揺るがそうとした男の傷跡を垣間見たと記しておく。
「だったらボクらで作っちゃおう!」ってな調子で、コロニーから適当なCPを一人見繕う事になった。ーー問題が生じた。
 要の主人公がウンともスンとも云わない。況して寝たきり…。サイレント喜劇さえ成り立たぬ、この花瓶のような主人公(ブンちゃん・28)の相手役には内的な演技力が不可欠。
 そこで前年、トリノ国際映画祭(伊)でグランプリの栄誉に輝いた『虎』(日・86)に於いて、世界中の映画ファンを感動に、また日本通と称するヨーロピアンを殺笑の坩堝へと巻き込んだ獣優・小林節彦の登板となる。
 撮影に、同映画の監督である藤田秀幸の手腕抜きには[夢の様な寓話が実写化され、気づいてみるとやっぱり悪夢だった]的作風に、仕上がらなかった事も追記して大勝利に替えさせて頂く。
 同年の暮、園子温と京都へ上映の旅に出た。
 偶然、気前の良い京女とオメコできる事になり、その生態を一部始終手持ちの8mmカメラに収めた。
 が、昔のブルーフィルムじゃあるまいし、腰のピストン運動と喘ぎ声だけでは完成したところで動物的にしか成立しない為、後にドラマ部分を捏ち上げ、題を『天国平和ラッパ』と命名する。
 粗筋は、自分がその当時繰り返し魘されていた悪夢を脚色した。…遠い昔に悪戯した罰が今頃になってわが身に降りかかるという、何とも後味の悪い内容である。
 悪戯をされる役で中村京子が妙演。縁図らずや、記者が中学二年生で初めて買った成人雑誌『月刊バンプ』には、Dカップ京子のオスケベ相談箱なる旨が連載されていた。チェリーボーイが常に抱く悩みの種(包茎)に「そんなの気にしなくてイイじゃん」と恵みの雨を降り注いでくれた記憶が蘇り、初体験(訂正!初対面)でも何だか親戚の叔母さんと話してる懐かしさでいっぱいになった。
 因みに今回は昨年の名古屋公開時に再構成された94年版が上映され、大勝利が予想される。
『鬼首伝説』は記者の作品ではないが、脚本の手伝いとクライマックス部分、仕上げ一切を受け持った。井口昇がイイ役で登場する! 更に本年度の毎日映画コンクール最優秀新人賞に輝いた『愛の新世界』の鈴木砂羽が熱い友情出演。冷めた演技が安さ爆発しており、両ファンは必見!
 音楽も暴力温泉芸者の奇才、中原昌也を迎え、ノイズフリークにとっては応えられない近来希に見る大勝利が達成された次第である。

山崎コメント
●vol29 1995 3 藤原章のタカマリ
 かつて1985年頃のPFFスタッフ間では、平野勝之、園子温、藤原章の3人を称して「3バカトリオ」と言っていた。バカにしていたわけではなく、もちろん次代を担う映像作家としての愛称的な意味合いだったわけだ。でも3人とも現在、とりわけ日本映画を背負って立つようなハナバナシイ活躍をしているわけではない。で、この中では最もエンターテインメント路線であるはずの藤原章が一番作品数がすくないというのも不思議ではある。これはさらにその昔、長崎俊一、石井聰亙、山川直人のトリオの中で、最も商業主義的に成功すると思われていた山川が、この中では一番落ち込んでいるのと似ているとは思う。
「人糞作戦」 藤原章 1980 8mm 65分
 チンピラ集団アクション映画。ドヤ街のシーンや港での集団乱闘シーンなど、この当時全盛の大暴れ型8mm映画からは一枚抜け出ていることは確かだが、まだ既成の商業映画のワクにこだわっている部分があって、それが8mm的荒っぽさのダイナミズムを減衰してしまっている。
「米屋」 藤原章 1988 8mm 30分
 ハチャメチャさではダントツの映画。障害を持った弟と暮らす女の部屋に、突如変態米屋が乱入してきて、大暴れ状態になる。それだけの映画。最初の米袋を投げるところのアクションの衝撃とか、笑い声やインド音楽(ワタシが提供した)が唐突に挿入される音声のセンスは出色のものがある。観ている方までアタマのネジがブチ切れそうな圧倒的展開は凄い。惜しむらくはこれら大爆発が部屋の中でのこととして終わってしまうところか。
「天国平和ラッパ」 藤原章 1994 8mm 55分
 園子温主演の白黒シネスコ映画。もう、アングラ臭がフンプンとたちこめているような作品。上映のたびに短くなっている。一介の観客として観た場合、やはりスコンと抜けて解放感を与えてくれないのが弱点か。
「鬼首伝説」 布施ゆき 1995 8mm 30分★
 藤原章がアクションシーン演出を担当した作品。これはなかなかやらかしてくれている。布施ゆきの他の作品を観たことはないが、彼女は浜松のヴァリエテ周辺にいたということだ。シネスコ作品。藤原映画ファンとしては、井口昇演じる2代目ゲシュタポマンの登場がうれしい。アクはそれほどでもないが、カルト映画的資質はじゅうぶんにある作品だ。