チラシ裏文章
[追悼・犬飼久美子]
 本年7月、SLEという病のため夭折した犬飼久美子の出演作を集めてみた。
 彼女は80年代中盤の札幌で、「映像通り魔」の作品を中心にコーディネーター兼出演者として活発な活動を展開した。
 森永憲彦の『PATINKO』はぴあフィルムフェス入選、山田勇男の『悲しいガドルフ』はイメージフォーラムフェス招待作である。また『散る、アウト。』は映像通り魔の最終作品であり、『逆行の夏』とともに「死」をテーマとしているところも、いまとなっては感慨深いものがある。

山崎コメント
 最初はこの年の7月に病死した犬飼久美子の追悼プログラム。彼女は80年代の初頭、石井聰亙監督のダイナマイトプロのスタッフをしていたが、生まれ故郷の北海道に戻ってきてワレワレと出会い、何本かの映画に出演した。
「官能のタンゴ」 佐々木浩久 1984 8mm 15分☆
 ビルの屋上で女ふたりが踊り、最後にキスをする。最初はそれだけの3分の作品だった。監督はのちに『ナチュラル・ウーマン』を撮った佐々木君。当時、ワタシたちの結成していた映画製作・上映集団「映像通り魔」のメンバーだった。犬飼の踊る相手は現在シナリオライターとして活躍中の小川智子。ところがあとで佐々木はイマイチ意味不明のシーンを付け足して15分の作品にしてしまい、焦点のボケた映画になってしまった。
「犬の時計」 松井エリセ 1984 8mm  9分☆
 おなじく「映像通り魔」のメンバーで、現在も東京で製作・上映活動をする松井エリセの作品。部屋の中で激しく踊る男、近未来的なビルの通路を歩く犬飼、浜辺で横たわりジリジリと前進する犬飼など、イメージ映像が続く。画面全体が赤から青へ、そしてまた赤へと変化してゆくリズムが美しいが、全体にMTVノリであるところが弱点だろう。
「陸路は夜の底に沈み…」 山崎幹夫 1986 8mm 19分
 映像通り魔の主要メンバーはほとんど札幌から東京に出てきてしまったが、犬飼もこの年、東京にふたたびやってきた。ビルの屋上に横たわる水着姿でびしょびしょ状態の犬飼の体の上を、カメラのマイクがしつこく乗り越えるという作品。役者ではなくモデル的な出演だった。どういうわけかオスナブリュック実験映画祭に招待された。
「逆行の夏」 映像通り魔 1983 8mm 21分
 映像通り魔の共同製作というかたちで作ったが、どうしてもカメラマンであるワタシの色が濃く出てしまっている作品。イメージ映像が主体だが、消えてしまった男の残した8mmフィルムを手掛かりに、8mmカメラのファインダーから新たに世界をながめてみようとする女の話。
「PATINKO」 森永憲彦 1982 8mm 30分
 PFF83入選作品。森永じしんが主演でカメラはワタシ。大学生の男の部屋に、以前に家庭教師をしていた女(犬飼)が家出して転がり込んできたことから始まる話。基本的に男の大学生活の回想的イメージで綴られる。内ゲバで殺された友人や、行方不明の学生演劇の女優のことなど。男は記憶を追う、あるいは逃げる。記憶は影のように男にまとわりついて、しかし決して離れることはない。最後に男は自分の影と重なり、雪の中に倒れて死ぬ。
「悲しいガドルフ」 山田勇男 1984 16mm 20分
 山田さんがIFFの招待作家になって2回目に出品した作品。異国を旅する男が、廃屋に一夜の宿を求める。そこで見た夢の情景。濃密な夢のイメージと、ドラマ的展開がほどよく調和していて、山田作品のなかでは最も一般ウケするものかもしれない。犬飼は夢の中に出てくる女を演じていて、唯一この作品では裸体を披露している。
「散る、アウト。」 山崎幹夫 1984 8mm 24分
 映像通り魔の解散じたいをテーマとした作品。解散から派生するイメージを軸に構成された映画なのでストーリーはない。しかし地下迷宮を彷徨う果てに犬飼が出会うミッキーマウス男は、映画や記憶の滅びについて語り、これはワタシの『虚港』につながる部分だ。音楽はオリジナル。現在ヴァイオリニストとして大活躍する勝井祐二の、19歳ごろの音楽だ。