上映会の開き方
上映日までにすること
作品はできた。そのまま死蔵してもいいけれど、やっぱり他人に観せたいのが人情というものでしょう。その結果、コテンパンにされようとも。
というわけで上映会を開こう。できた映画(映像)作品は自分の子どものようなもの。自分に密着していて客観視できないけれど、上映をするという作業を通じて作品は他者にさらされるし、それは同時に自分を他者にさらすことにもなる。これは苦痛もあるし快感もある。
●どこから手をつけたらいいのか
まず決めなくてはいけないのが上映場所だろう。
これは自宅であってかまわない。でも気分が出ないよね。自宅上映というのはやはりある程度のポリシー(そうであるという意思)が必要であるような気もする。最初だったらやはり自宅の外の場所を借りてするというのがいいかもしれない。
上映主体者がどんな土地に住んでいるかによってフレキシブルな対応ができるだろうけれど、まず考えられるのが公民館の視聴覚室、それから喫茶店やライブハウス、それに類するフリースペース。あなたが大学生だとすれば、大学の内部は自宅と同然だと思う。とにかく外へ出てみよう。かわいい子(作品)には旅をさせよう。
公民館だとタテマエとして入場料が取れない。いや、取れないことはないが、場所の借り賃がハネ上がる。なのでチラシ上からも「入場料」ではなくて「カンパ〇〇〇円」とか「資料代〇〇〇円をいただきます」と明記しておくこと。喫茶店やライブハウスだとそのあたりは事前の打ち合わせではっきりできるので楽といえば楽だ。
必要とされるのは暗闇と静寂、そして電源だけだから、考えてみるまでもなく演劇や音楽の公演よりも楽だ。圧倒的に楽なのだ。電源さえ確保できれば夜の戸外でできるし、それこそ天の川も見える満天の星の下での上映会だってできる。この自在さこそが、まだ映画の歴史の中でじゅうぶんには試されていないことなのではないかと思う。
それは深くは言わないとして、そんなふうに一見不自由に思える映画(映像)作品だけれど、じつは小回りがけっこう効くということに気づきさえすれば、映像の発表の場所は無数にあるわけだ。さあ、どうする。どうしてくれようか。
参考になるかどうかわからないが、1998年秋にワタシと山田勇男氏で企画した北海道巡回上映は、かなり多様な場所でおこなわれたので、記しておこうか。
10月17日 釧路
ジス・イズ(ジャズ喫茶店)
10月18日 網走
満花園(お花屋さん)
10月19日 北見
風来山人(喫茶店)
10月20日 置戸
置戸町立図書館(図書館)
10月21日 帯広
演研芝居小屋(地元劇団の専用公演スペース)
10月22日 江別
ドラマシアターども(地元劇団の専用公演スペース)
10月23〜25日 札幌
TEMPORARY SPACE(ギャラリー)
10月25日 旭川
道立旭川美術館(美術館)
10月26日 札幌
ソルトピーナッツ(焼き肉居酒屋)
場所は未知数な場所であればあるほど面白い。そしてまた、美術のインスタレーション作品のように、場所に限定されるような映画(映像)作品があってもいいだろうと思う。
ちょっと脱線してしまった。もとに戻ろう。とにもかくにも場所は確保した。次は告知(インフォメーション)だ。これを情宣(情報宣伝)活動と言う。
●情宣活動
チラシかポスターか告知はがきをつくろう。3点全部をつくってもいいが、どれかひとつに絞ってもいい。
東京など大都市ではポスターを貼る場所があまりないのでチラシが有効だろう。映画館や自主上映の会場での折り込みで数千枚ていどは簡単にさばける。
逆に地方都市の場合はポスターが有効だったりする。喫茶店や飲み屋に貼ってもらえばいい。また、ひもを通した段ボールに貼り付けて、電柱にくくり付ける(通称でこれをステ看と言う)方法もある。だがこれは違法行為になるので、警官に見つかったら始末書とお説教は覚悟のこと。
告知はがき(DM)は、あるていどの観客住所リストがあることを前提にしている。Eメールでの告知についても同様だ。そんなわけで一度観にきた人に、次回上映の告知をするために会場でのアンケートがあるわけだ。
DMリストを他の上映主催者から借りて告知を出す場合は、チラシの他に別紙で「〇〇様よりDMリストを拝見させてもらいました」と一筆入れておくこと。でないと「いったいどこからウチの住所を知ったのだ」と逆効果になる場合がある。これは常識と言うより仁義に属する問題。
地域の情報誌や新聞の地方版に上映会の情報を載せてもらうことも検討されたい。その場合、チラシだけ送るのではなく、もっと内容を詳細に書いた「企画書」のようなものと、上映作品のスチール写真を同封するのが鉄則だ。さらに時間があれば、担当記者の人にアポを取って、それらを直接手渡しすること。ちゃんと顔を合わせるということは大きく、記事の扱いに影響するものなのだ。
●その他の注意点
自分の作品を上映するならともかく、他人の作品を上映する場合は作者との打ち合わせは綿密にしておこう。作品提供の了解をとって安心してほったらかしにしてはいけない。チラシができたら作者に送るのは当然として、作者からもDMを送ってもらえるように切手を同封するなどの配慮があるといい。
また、上映作品のレンタル料についても誤解のないようにしておこう。レンタル料を出せるほどの収益が見込めない上映会がほとんどだと思うが、ここらへんをあいまいにしておくとトラブルの種になる。細かいところだが、作者から作品を送ってもらう時に「着払いで送ってください」と一言添えておくことも大切なこと。
上映当日
まずは持ち物から。ワタシの手元に、とあるギャラリー(画廊)を借りて上映会をおこなった時の「持ち物リスト」がある。ギャラリーという場所はそのまま使用できる映写設備がないので、参考にするためには最適と思われるので以下、列記しよう。
★1 上映作品
★2 8ミリ映写機(メイン)
☆3 8ミリ映写機(予備)
☆4 アンプ
★5 スピーカー
★6 スピーカーケーブル
☆7 スピーカー台(あるいは脚部)
☆8 映写台
★9 各種接続コード
☆10 音声ミキサー
★11 エアダストクリーナー(もしく はブロワー)
★12 ヘッドクリーニングセット(綿 棒+消毒用アルコールでも可)
★13 スクリーン
★14 スプライサー
★15 映写機の替えランプ
★16 巻き取りリール
★17 おつり
☆18 会場BGMテープ
☆19 暗幕
☆20 黒ガムテープ
☆21 パーマセルテープ
☆22 会場での売り物
★23 延長コード
☆24 黒いひも
☆25 フック
★26 ペンライト
☆27 画鋲
☆28 アンケート用紙
☆29 チラシ
☆30 靴入れ用のビニール袋
☆31 領収書
☆32 ざぶとん(あるいはパイプ椅子な ど)
☆33 映写テスト用フィルム
★印はどんな場合でも必要と思われるもの。☆印は会場によっては必要ではないと思われるもの。
予備の8ミリ映写機はメイン映写機が故障した(すでにしていた)場合の保険のようなものだ。映写中のランプ切れは替えランプで対応するし、フィルム切れはスプライサーで対応する。しかし映写機内部のベルト切れが起こった場合、サブ映写機がないとどうにもならない。その他、予測不能の事態が起こる場合もあり、やはり用意しておいた方がいいだろう。
アンプを「絶対必要」にしなかったわけは、映写機のスピーカー出力端子から直接スピーカーにつないでも音は出るからだ。エルモの映写機の場合はスピーカー出力端子が特殊な形状をしているが、プラス(縦穴)とマイナス(横穴)を間違えないようにして、直接スピーカーケーブルを差し込み、ガムテープで固定すればいい。
ワタシが上映会で必ずアンプを使用しているのは、余裕をもってスピーカーをドライブしたいという気持ちと、アンプの機能として内蔵されているイコライザーで音質を調整したいからなのだ。
アンプにイコライザーが内蔵されていない場合(この方が多いが)、別にイコライザーだけを単独で持っていって使っている。なぜそうするかと言うと、8ミリ映画の場合、録音のしかたによってセリフが聞き取りにくいことが多々あるからだ。何を言っているのかがわからないと、単純に不愉快な気分になる。そのため、会場で手早く音質を調整することが要求されると考えるからなのだ。
スピーカーとスピーカーケーブルは通常のものでいい。ただ映写機(アンプ)とスピーカーの距離が10メートルを越すような場合、あまり安いケーブルを使うと情報の損失が大きくなるので、ちょっとはマシなものを使うことを勧める。ちなみにワタシは1メートル 300円のものを使っている。
音声ミキサーは1トラックと2トラックの音声を、独立して調整するためと、映写機のライン出力からそのままアンプにつなぐと、1トラックが左、2トラックが右から出てしまうので、ミックスするために使っている。DJ用の高価なミキサーでなくてもいいので、一番安価なビクター製のものでいいだろう。これはマイク入力を含めて3チャンネルのミキサーで、実売で1万円しない。上映作品が1トラックのみ録音のものだけなら、1トラックライン出力から二股にわかれている接続コードでアンプにつなげばいいので、ミキサーは不必要となる。
11と12は映写機掃除のためものなので後述。11はカメラ用品、12はオーディオ用品である。
スクリーンは正式のスクリーンが用意できない場合、白いシーツと考える人が多いようだが、布よりは紙の方がいい。スクリーンの値段はさまざまだが、これは反射率によるものだ。高ければ高いほど反射率が高く、明るく映写できるということ。また、スクリーンにはマット方式とビーズ方式の2種類あるが、どちらがいいとは断言できない。
映写機の替えランプは、映写機の項を参照して、きちんと映写機にマッチしたものを使うように。1個で4000円前後もするものだから、間違えて切れたら大損だ。繰り返しになるが8ミリ映写機の銘機、エルモGS1200の正規対応ランプ、ESCは製造中止された。しょうがないのでELC(24V 250W)かEJL(24V 200W)を使用しよう。
巻き取りリールはたいてい映写機に付属している。しかし忘れがちなものでもあるので再確認をしよう。
さらに、作家に上映作品がどんなサイズのリールに巻かれているかも確認すべきこと。上映側の用意した映写機が 600フィートリールが限界の映写機なのに、上映作品が 800フィートリールに入っていたりすると、苦労して2つに分けなくてはならない。上映直前にそれが発覚するとドタバタしてしまう。ちなみに、マグネコーティングされたシングル8の場合、18コマ/秒だと 600フィートリールにぎりぎりきっぱいまで巻けるのは56分が限界だ。
いちばん忘れがちなのが「おつり」。土日は銀行の両替機が使えないし、現在はパチンコ屋も両替できないので、もっぱらゲーセンにたよるしかないがみつかると叱られる。バツの悪い思いをしないためにも、用意されたし。あるいは入場料を1000円にするというテもある。
暗幕は外からの光漏れを防いだり、日中の上映会の場合、入場口の内側に暗幕を吊って、上映が始まってから入ってくる場合にスクリーンに光が入ることを避けるためのもの。これも会場の条件しだい。意外と映写機の上部から漏れるランプ光が、天井の白い部分に反射して気になるケースもある。これも上映前に確認すべきことだ。
パーマセルテープは写真用品で、光を反射しない黒テープのこと。これもセッティングのところで述べる。
黒いひもとフックはスクリーンを吊すためもの。ひもは目立たないように黒いものがいいだろう。
ペンライトは映写の必需品。口にくわえて両手で作業するのが基本。
領収書は、じっさいに請求する人がいたので加えている。どこかで後で落とせる人。映画祭などのコーディネーターなど、仕事で映画を見る人などが請求してくる。
●セッティングのしかた
まず映写機の位置を決めよう。
観客の頭が映写画像に重なったりしないように、ある程度の高さが必要とされる。もちろん映写台はガタつかないように。テーブルをふたつ重ねてその上に映写機を置いてあるようなセッティングの上映会を見かけることがあるが、映写機が落ちるのではないかとハラハラして映画に集中できないではないか。
次にスクリーンを吊そう。会場にスクリーンがあればそれでよし、なければ持ち込むわけだが、吊すために勝手にフックをつけることのできない会場もあるだろうから、事前に確認しておくこと。
スクリーンは風などでぐらぐらしないように、また観客の頭の影が映り込まないように、そして映写機に対して傾かないようにセッティングする。これは映写機を空映写して、会場に座ってみたり、空映写の状態で外ワクにピントを合わせ、左右が同時にピントが合うかどうかで確認する。
次はスピーカー。スピーカーを床に直接置くと、低音部が強くなり過ぎたり、会場の下の階に音漏れして苦情の来る可能性がある。スピーカーはトールボーイという細長いタイプのものを除いて、台の上に置きたい。決して頑丈な台でなくとも大丈夫。コップを3つ並べて、その上にスピーカーを置くだけで音質が改善されることもある。
スピーカーを会場の左右ぎりぎりに離して設置する上映会がほとんどだが、これは間違い。ホームシアターやオーディオ鑑賞のように、リスニングポイントが一か所かそれに近い場合は離してもかまわないが、上映会というのは大勢でいちどに鑑賞する場なのだ。会場が横長で観客が大勢いた場合、前方の左右の端に座った観客は、斜めからスクリーンを見ることになる。この時、スピーカーが会場の端と端に置かれていたら、隅に座った観客にとっては、スクリーンの外から音が聞こえてきてしまう。
オーディオ的には、これは「音場」の問題になる。ステレオ録音された作品の上映で、会場が縦長ならばスピーカーを離しても音場の破綻は気にならないだろうが、通常はスクリーンの左右の幅をはみ出さないように置きたい。2つのスピーカーをくっつけて、ちょっとだけ外向き(左右のスピーカーが顔をちょっとそむけ合う)に置くのが基本だ。
また音はスピーカーの背後からも出ているので、壁にくっつけないようにしよう。もちろん会場の内壁の音の吸収率によって何がベストかは変化する。事前にテストすることが必要だろう。
スピーカーケーブルは観客が足でひっかけないように、ガムテープで床に貼り付ける。これは延長コードについても同じこと。映写中に場内に入ってくる人もいることを想定することが必要だ。
会場によっては「非常口」灯の明かりが悪影響をおよぼすことがある。問答無用でなにかで覆ってしまおう。規則遵守にキビシそうな場所だったら、映写開始直前に覆ってしまって、終わったらすぐにはずせばいい。
●映写機の掃除のしかた
次は映写機の掃除をしよう。空映写(からえいしゃ=フィルムをかけずに映写してみること)をしてピントをいじると、映写されたフレームの枠の部分にホコリがついているのが見えるだろう。そのまま映写すると見苦しいし、フィルムを傷つける原因にもなる。
まずは映写機の上部のホコリをハンカチなどで拭き取る。ここにホコリがつもっていては、いかに内部を掃除しても後で吸い込んでしまうわけだから。
次に映写機側面のふたを開けて、フィルムが入って出るまでの経路にあるホコリをブロアー(エアダストクリーナー)で吹き飛ばそう。
念入りに掃除すべき場所はアパチャー(フィルムとランプからの光が交差する部分)だ。この部分は短いスキー板の底と底をくっつけるようなかたちで、フィルムを押さえる機構になっている。これをプレッシャープレートと言う。
映写機によって方法は異なるが、ここはわずかに開くようにできている。当方の所有する映写機での開き方は、下に書いておく。
ともあれ開いてホコリを吹き飛ばそう。ブロアー(エアダストクリーナー)だけでなく、映写機の初期備品としてついてくるブラシでこすったり、あるいは綿棒に薬局で売っている消毒用アルコール(あるいはフィルムクリーナー液)を浸してこすってもいい。
さらに映写機の磁気音声再生ヘッドも掃除しておきたい。オーディオ用品で売られている「ヘッドクリーニングセット」を使ってもいいが、綿棒と消毒用アルコールでもOK。ヘッドの掃除はそう頻繁にする必要はない。
プレッシャープレートの開き方
フジSD20…カバーを取ると、ピントつまみのカバーで隠れている部分に、一部欠落しているような部分が見える。つまみを動かして、この欠落部分をランプ側にすると、プレッシャープレートが完全に開くことができる。
フジSH9…プレートを指でスライドさせるだけ
チノン9500/7200…ピントつまみ上の金属パーツを右へスライドさせて開く
エルモGS1200/ST180…レンズを掴んで、手前に引っ張ると、ドアが開くような要領で、プレッシャープレートも一緒に開く。
サンキョーOMS-850T/OMS-650…指でスライドさせるだけ
コパル515…まずピントつまみを引っ張ってレンズを抜く。その上で、まずプレートをスライドさせてから、手前に引っ張るとはずれて取り出せる。
ベルハウエル495…Sの字の刻印が2つある。まず右のプレートを引っ張り出し、次に左のプレートを引っ張り出す。
●映写中のホコリの除去
映写前にていねいに掃除をしておいても、フィルムに付着していたりしてホコリがアパチャーにひっかかることはよく起こる。とくに8ミリはフィルムが小さいので、ちょっとしたホコリでも目立って見苦しくなる。どうしたらいいか。
いちばん簡単なのは、エアダストクリーナーのノズルをアパチャーの上部に近づけて、瞬間的に空気を吹き込んで取り除くことだ。しかしけっこうハデな音がしてしまう。映写室のないような会場ではあまりやりたくない。
そこで一案。
綿棒に消毒用アルコールもしくはフィルムクリーナー液を浸して、できるだけアパチャーに近いところで、フィルムに塗り付けるのだ。表面でホコリが取れなければフィルムの裏面も試してみる。これでけっこう取れたりするもの。ここまでしてダメならあきらめるしかないが、カットのつなぎ目の部分であっけなく取れたりすることもある。
●スクリーンのマスキング
ここでようやく持ち物リストに入れた「パーマセルテープ」の出番となる。マスキングというのは、スクリーンの上下左右に黒い枠をつくって映像をくっきりと見せようとすること。方法はいくつかある。
やってみるとわかるが、白いスクリーンの後ろが白い壁である場合、スクリーンの裏に暗幕を垂らすと映像がにわかにくっきりと立ち上がってくるように見える。暗幕がふんだんにあるならばこの方法がいい。暗幕でなくとも、黒い紙をスクリーンの背後に貼ってしまうというテもある。
そうもできない場合、スクリーンそれじたいにパーマセルテープを貼ってしまえばいいのだ。まず映写機とスクリーンの位置設定が済んでいることが必要だが、テストフィルムで映写しながら映像のフレームを見極めて、その枠に合わせてパーマセルテープを貼ればいい。たかがそれだけのことで映像がしっかり浮き立ってくる。黒ガムテープだと光を反射してしまうので、逆効果になってしまう。黒布を切ってつくるのもいいが、ヘナヘナしているとやはり見苦しい。
パーマセルテープは、堀内カラーから発売されていて、標準価格は1450円(50m強)、型番はJ-3596。
●上映会は興行なのだ
実態としては仲間うちの発表会であっても、チラシを撒き、メディア上に告知をして、入場料を取る上映会をおこなうということは、これはまぎれもなく興行をしていることになる。
何が言いたいかというと、身内ばかりで和気あいあいになっている会場は、部外者にとっては不愉快だということだ。つい知り合いがくるとペチャクチャお喋りしがちになることもわかるが、上映会を主宰する者は、有料で入場している人が不愉快な気分にならないように、常に会場の雰囲気をコントロールしなければならない。
身内でない観客が不愉快な思いをしている。このことに想像力がいたらないような人間のつくる映画は、たいした作品ではないとも言える。
堅苦しく無個性な上映会にしろと言っているのではないので誤解をしないように。
ゆるんだ雰囲気は歓迎すべきものだと思う。しかしだらしなくゆるんでいて、不愉快な思いをする観客を生むようなことは避けてほしい。ゆるんだ雰囲気がその場にいる全員をリラックスさせるように工夫してもらいたい。
とにかく興行という意識をもって上映会に臨もうということだ。作品の出来や内容と関係のない部分で悪い印象してしまうと、せっかく生み出した作品がかわいそうでしょう。
自宅/産直/野外上映
なんでもありこそ自主上映
●自宅上映
前々項では否定的な書き方をした自宅上映だが、その真意は「会場費がかからないというだけの安直な気分ではやってほしくない」ということなのだ。観客側のメリットとして、作家本人の自宅上映の場合、その作家の生活の場が覗けるという楽しみがある。
かしこまった「自主上映会」というよりは「フィルムパーティー」という感じのくだけた雰囲気になるだろう。ワタシはかつて自宅で上映したさい、8畳間に20人も来てしまい、窮屈な思いをさせてしまったことがある。だが、無機的なフリースペースに押し込まれるよりもはるかにマシだった。上映が終われば即座に飲み会に突入できるし、もちろん飲み食いしながら観てもいい。
日本の住宅事情では、上映会ができるほどの広さのある家に住んでいる人はそれほどいないという声もある。だが何ごとも工夫しだい。『3月のライオン』の監督、矢崎仁司さんはかつて東高円寺の4畳半のアパートに住んでいたが、好都合なことに窓を開けるとそこには向かいのアパートの白い壁があったのだった。窓を開け放ち、外にスクリーンが自然に設置されている状態での自宅上映は、なかなか楽しいものだったと言う。
自宅上映の方法としては、最寄りの駅に何時集合というふうにチラシに印刷し、そのチラシを持ったスタッフが待機して案内すればいい。
自宅にオリジナルの会場名をつけられるのも主催者側の楽しさのひとつでもあるだろう。ちなみに前述のワタシの家の8畳間は、掘りごたつがあることから、そのまんま「掘りごたつシネマテーク」と命名されている。
●産直上映
映画をつくるだけでなく、その専用上映会場も自分たちでつくってしまうことだってできる。産地直送販売方式の上映会というわけだ。例を3つほど紹介しよう。
?バスの中で上映…バスの中で上映してしまうという方法。足立正生監督の政治ドキュメンタリー映画『赤軍PFLP・世界革命戦争宣言』がこの方式でおこなわれた。チラシにはバスが到着する場所と時刻が書かれている。そこで待っているとやがて真っ赤に塗られたバスがやってきて、観客は走っているバスの中で映画を観ることになる。これは貸してくれる会場がなかったために編み出された方法だと聞いている。
?自前のテントで上映…鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』を製作したシネマプラセットが試みた方式。シネマプラセットのボスである荒戸源次郎はアングラ芝居をやっていたため、自前で公演用のテントを持っていた。そこで空き地を借りてテントを建てて興行をおこなったのだった。このテントは空気圧をかけて膨らむタイプで、空調もついていたすぐれものだった。そこまでのテントは用意できなくとも、春や秋であればアングラ劇団からテントを借りて上映会をおこなうことは可能だろう。
?仮設の映画館で上映…山本政志監督の『てなもんやコネクション』は渋谷の空き地に突貫工事で仮設映画館を建ててしまい、そこで上映された。ここまでやると立派な劇場になるので、消防法やら保健所の許可やら面倒臭い手続きに悩まされることになるだろう。しかし上映する映画にふさわしい場所と建物の構造を試みることができる。一般の貸しスペースでは絶対にできないようなパフォーマンスを導入することもできる。
●野外上映
前々項で述べたように、映画の上映に必要なのは「暗闇・静寂・電源」である。ならば電源さえ確保できるなら野外で夜に上映することもじゅうぶん可能ではないか。そう言えば昔はよく小学校の校庭などで映画の上映をしていたこともあったと聞く。
そんなわけでワタシも試みたことがある。場所はキャンプ場。暗闇と静寂は申し分ない。問題の電源は発電機を使い、ドラムリールをつないでスクリーンからもっとも離れた場所に設置した。当日は雨が降ることもなく、なんと満天の星の下、しかも天の川まで見えるという絶好の環境で上映できた。不思議なことに、映画は閉じられたスペースで観るものだという固定観念から、ここが野外ではなく、プラネタリウムを借りて上映しているという錯覚に陥ったのだった。
予測しなかったのは虫の襲来である。映写機の強烈な光に誘われて、蛾やら甲虫やらが映写機に殺到してしまったのだった。中にはフィルムにはさまれて一瞬スクリーンに大写しなる虫までいる始末。翌日フィルムを見ると、多数の虫がはさみ込まれていて、フィルムクリーニングしなくてはどうしようもなかったのだった。
●何でもありこそ楽しい
以上、思いつくままに書いてきたし、ワタシじしん実にさまざまな場所で上映をおこなってきた。やりたいと思いながらやっていないのは、お寺の本堂での上映会、屋形船での上映会、車の入ってこないトンネルでの上映会、廃墟を占拠しての上映会だろうか。
前述の野外上映ではないが、場所のもたらす何かと上映する映画が作用しあって、思いもかけないプラスの効果をもたらすことがある。自主上映だからこそ何でもありだし、想像力をフル稼働させて思いもよらぬ場所での上映会がおこなわれることを期待したい。