Vol.156   こんなときに、こんなこと

「さて、本日はお馴染みの宇宙人研究家Y氏をお招きして討論会を行いたいと思います」
 宇宙人研究家といっても、見るからに怪しい人物で、言っていることもまったく論理的ではないが、逆にそれが視聴者に受けるのだろう。大学教授のM氏がむきになって論理的に反論するのも面白いようだ。以前は視聴率の取れる人気企画だった。
 コロナ禍となり、報道もコロナ一色となり、しばらく休んでいたのだが、まったく先の見えない長期化で、ネタも尽きてきたし、視聴者も正直なところ飽きてきた。そこへY氏がとんでもないことを言い出したので久しぶりに番組が企画されたのであった。
「さて、Yさん、コロナは宇宙人によるものだとのことですが」
「そうです。信頼できる筋からの情報によりますと、コロナは宇宙人が地球に持ち込んだものです」
「コロナウイルスは人工的に作られたものだという説もありましたが」
「まあ、人工的というか、地球外で自然に発生したウイルスです。それを宇宙人が地球に持ち込みました」
「あなたねえ、馬鹿なことを言うんじゃないよ。信頼できる筋ってなんなの?」
 早速M、教授が噛み付く。
「私の友人の友人が宇宙人でして、その方からの情報です」
「だからその人を連れて来いと言っているじゃないか」
 ソーシャルディスタンスのスタジオから笑いが起きる。
「人工的か自然発生かはっきりしないけども中国で発生したことは間違いないわけだよね」
「宇宙人が中国に持ち込んだのです」
「何のために?」
「アメリカが中国を批判していますよね。実はアメリカの大統領は宇宙人でして、彼の思うようにアメリカを支配しているのですが、中国が邪魔でして、中国を攻撃するためです」
 とんでもないことを平然として言うY氏である。確かにあのアメリカ大統領は地球人は慣れした人物ではあるが。
「中国よりアメリカの方が被害が大きいよね。計算違いなの?」
「いえ、計算通りです。中国は攻撃する材料にしているだけで。アメリカやヨーロッパの人は実は大統領が宇宙人だと疑っている人が多いので、口封じのためにコロナを流行らせているんです」
「日本は?日本もアメリカの大統領が宇宙人だなんて言っている人はあなたしかいないもんね」
 Y氏に言わせれば、欧米で感染者が多く、アジアで感染者が少ないのは、ファクターXの正体は宇宙人の計画なのだそうだ。
「日本の総理大臣は宇宙人じゃないの?」
「違います。ただ次の総理大臣は宇宙人です。これも宇宙人が意図したことです」
 先日、病気を理由に総理大臣が辞任を表明した。しばらく報道はそのことで持ちきりだったが、長くは持たなかった。それで宇宙人企画をやることになったのだが、次期総理大臣の有力候補であるZ氏は宇宙人で、交代は宇宙人であるアメリカ大統領の差し金だと言うのがY氏の説である。
「実はオリンピックの有力選手たちにも多数の宇宙人がいまして、宇宙人同士で争わないようにオリンピックも中止にしたんです」
「また馬鹿なことを言って、証拠を見せなさいよ」
 当然、証拠などなく、M教授は呆れ、スタジオは失笑に包まれた。

「やあ、これはどうも」
 放送州雨量後、M教授に電話が入った。電話の主は次期総理大臣有力候補のZ氏だった。
「ええ、誰も信じてはいませんから大丈夫です。しかし、どうしてYの奴は、我々のことを分かっているんですかね」

                                           了


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