Vol.153   スター

「今日のゲストは誰もがご存知の大スター、星野輝喜さんです」
「どうも。20 周年おめでとうございます」
 用意していた花束を渡す。この番組はトーク番組としては最も有名で人気があり、長寿番組となっている。今日は20周年記念の特別番組ということで、ゲストとしては俺以外にはいないだろう。トーク番組などに出ることはほとんどないのだが、ご祝儀代わりにオファーを受けた。気配りも忘れない。俺は紛れもなくスーパースターだからだ。もちろん花束はスタッフが用意したものだが。
「まあ、ご出演いただけるだけで感激ですのに、綺麗なお花までありがとうございます」
 司会者も人気のあるタレントで芸能界では大先輩にあたるが、真のスーパースターと呼べるのは俺だけである。身の程をわきまえている。
「今は主演映画が大ヒットされていますね」
 デビュー作から10 年、出演した映画はすべて興行収入1位となっている。もちろんデビューから主演しかしたことはない。
「主題歌も大ヒット、監督もなされているのですよね」
 すべての映画の主題歌も歌い、すべてがヒットチャート1位になった。ここ数年は監督、脚本もやるようになった。テレビに出てもすべて視聴率1位である。
「自伝もミリオンセラーですのね。すべてにおいてナンバーワンですわね」
 デビュー10年を記念して自伝を出版した。たちまちミリオンセラーとなった。もちろん書いたのはゴーストライターだが。そう、何事においても俺はナンバーワンなのである。
「お酒はお飲みになるのですか」
「あまり飲みませんね。打ち上げなどは盛大にやりますが」
 先日も映画の打ち上げがあり、銀座の高級店を借り切って盛大にやった。出演者やスタッフ全員を呼んで、もちろんすべて俺の奢りだ。飲みに行く時はたまたま居合わせる一般客にも奢る。何故なら俺はスーパースターだからだ。
「いつもお忙しいでしょう。お休みなんてありますの」
「ほとんどありませんね。月に1日あればいいところです」
「貴重なお休みは何をしていらっしゃるの」
「休みの日はしっかり休みます。体調もしっかり管理しなければいけませんから」
「そうですわよね。あなたの代わりはいませんものね。ナンバーワンでオンリーワンですものね」
 そうなのだ。俺に代わる者はいない。俺は唯一無二のスーパースターなのだから。規則ただしい生活を心がけ、適度なトレーニングも欠かさない。俺が病気などしようものなら、すべての国民が悲しむ。
「太陽のような方ね」
 うまいことを言う。そう俺はまさに太陽だ。パッと出てくる人気者は流れ星といったところか。それなりに人気のある奴らも太陽の周りをうろつく恒星に過ぎない。太陽である俺に照らされているだけだ。もし俺がいなくなるようなことがあれば、この世は闇だ。

「あいつが太陽だなんてことがあるものか」
 テレビを見ながら、彼が呟いた。彼は芸能界を取り仕切る大プロデューサーである。
「あいつは俺の手によって輝かされているだけだ」
 10 年間、あいつもよく頑張ってはいる。しかし、もうあと数年だろう。引き延ばす必要もない。次の手はもう考えている。
「強いて言えば、俺が太陽だ」
 太陽自身が日向に出てくることは決してないのだが。

                                            了


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