Vol.149   トイレの神様

 田舎だから仕方ないんだけど・・・。
 僕の家は古い古い木造なんだ。もうあちこちボロボロで薄汚れている。北国だから冬は寒い。夏は虫がいっぱい出る。
 エアコンなんて洒落たものはもちろんない。暖房はこたつとストーブ。冷房は扇風機だ。蚊帳をつって、蚊取り線香だ。部屋はすべて畳の和室。畳はどれも古くて汚い。
 壁にはご先祖様の写真がズラリと並べられている。田舎の家にはよくある風景だけど。これはあまり気持ちのいいものではない。
 お風呂も汚い。カビだらけだ。ボタンをピッと押せばお湯が貯まるなんてタイプじゃあない。水をはって沸かす古いタイプだ。
 そして何といってもトイレ。東京では考えられないだろうけど、未だに汲み取り式なんだ。離れに建っている。オンボロの木造だ。汚いし、臭い。
 一応、廊下で続いているので外に出る必要はないけど、廊下には電球があるだけで薄暗い。トイレの中も蛍光灯なんてなくて、電球なので薄暗い。特に夜なんて怖くて行く気がしない。
 だって出るという話しもある。もちろん虫もいっぱい出るけど、そうじゃない。幽霊が出ると噂されているらしい。
 だから僕はこの家が大嫌いだけど、中でもトイレが一番大嫌いだ。
 なのに僕はずっとトイレで暮らしている。どうしてなのか。いつからそうなったのか分からないけど、もうすごく長い間、ずっとこのトイレにいる。ここから離れられないのだ。こんなに汚くて、臭くて、大嫌いな場所なのに。他の所へは行けないんだ。
 そういえば学校にも行っていない。お風呂にも入っていないし、食事もしていない。ずいぶんと長い間、僕はずっとこのトイレにいる。

「あの家、すごく古いね」
「もう誰も住んでいないんだよ」
「お化けが出るんでしょ?」
「もう何十年も前のことだけど、子供がトイレに落ちて亡くなったんだってさ」

                                            了


BACK