Vol.148   永遠の瞬間

 教室に微妙な空気が流れた。
「ああ・・・じゃあ、小川どうだ?」
 どうやら間違えてしまったらしい。小川が答えると、先生が満足げに頷いた。
 先生の話しを聞けば分かる。落ち着いて答えれば正解できた問題だった。何で間違えてしまったのだろう。あの娘にいいところを見せたくて慌ててしまったのか。
「そうだよ。そう答えればよかったんだよ」
 思わずつぶやいてしまった瞬間、目眩を感じた。ほんの一瞬のことだったが、頭の中で大きな渦が巻いたような感覚だったが、すぐに普通に戻った。
「そうだ。よく分かったな」
 先生が僕に向かって言った。何だ。一体どうしたというのだろう。訳が分からなかった。
「おい、よく分かったな」
 授業が終わると、友達が話しかけてきた。
「何が?」
「あの問題だよ」
「ああ・・・まあ」
 どうやら僕は先生の出した問題に正解を答えたらしい。あの目眩がする前に間違えたはずだったのだけど・・・。何がどうなっているのかよく分からなかった。
 午前中の授業が終わり、休職の時間になった。
「ちぇ、鮭か、唐揚げがよかったな」
 今日の献立は、あまり好きではない鮭のタルタルソースだった。鳥の唐揚げが食べたい気分だった。
 するとまた一瞬強い目眩を感じた。そして普通に戻ったときに、目の前にあったおかずは鳥の唐揚げだった。恐る恐る唐揚げを食べてみたが、紛れもなく好物の唐揚げだった。
 これはどうやら・・・願ったことが実現しているのだ。あの目眩が関係しているようだ。あの瞬間、何だか違う場所に移動しているような感覚がある。
 そうだ。小説で読んだことがある。パラレルワールドといっただろうか。少しづつ違った無数の世界が同時に流れている。ある世界の僕は頭が良く、ある世界の僕は成績がよくない。もっと細かなことで、ある世界では給食のおかずが唐揚げで、ある世界では鮭だったりする。
 あの目眩がする瞬間、僕は望んだ世界に移動しているのではないか。なんで突然そんな能力が身に付いたのかは分からない、でもだとしたら、凄いことだ。
 その後、いろいろ試してみて、特殊能力に間違いないことが分かった。使い方のコツも分かってきた。失敗したと思ったらやり直せるのだからこんな素晴らしいことはない。
 成績が上がった。スポーツもうまくいく。目立たない方だった僕がクラスでも人気者になった。そして憧れのあの娘ともいい感じになり、遂に初のデートにこぎつけた。
 今、あの娘が僕の目の前ではにかむように微笑んでいる。2人きりだ。
「ああ、この瞬間が永遠に続けばいいのに」
 感極まって、そんなことを思ったとき、目眩を感じた。
 時間が止まっていた。目の前であの娘が微笑んでいる。それはいい。幸せなことだ。でも僕は動くことが出来ない。あの娘も動かない。この瞬間が永遠に続く世界に来てしまったのだ。
 こうやって物を考えることはできる。でもどうしようもない。このままの瞬間が続くのだ。永遠に。

                                            了


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