Vol.145   最初の一つ

「宅配便です」
 ドアチャイムの音に、待ってましたとばかりに飛び起きた。
 ひったくるように受け取って、包みを開けるのももどかしく、紙袋を引きはがす。
 通信販売で買った商品が届いたのだ。あまり通販は使わないのだが、テレビ番組を見て、ものすごく欲しくなってしまった。便利な世の中になったもので、翌日には届くということだったが、その1日が待ちきれないほどで、昨夜はほとんど眠れなかった。
 箱を開ける。部品がずらりと入っている。そして分厚いマニュアルを取り出す。あまりこういったものは読まないタイプなのだが、部品を組み立てなければならないので目を通す。
「何なに・・・」
 思っていたより多くの手順がずらずらと書いてあった。これは簡単にはいかなさそうだ。
「最初に、このボタンを押して・・・」
 次々に書いてあることをこなしていく。一つ一つのことはそんなに難しいことではない。ただ数が多過ぎる。もう少し単純にできないものだろうか。この部品とこのコードなんて最初からつなげておけばいいと思うのだが、あえて手作り感を味わいたいという人が多いのだろうか。私はもうだいぶうんざりしてきた。
「次にこの部品を取って、こっちにはめると・・・」
 何とか気を取り直して作業を進めた。あともう少しだ。
「ここを折り込めば完成です」
 よし。私はホッと一息をつき、ようやく出来上がった製品を眺めて、満足感に浸った。作成の手間がかかっただけに達成感も大きいのだなと思い直した。
 さあ、いよいよ使ってみよう。起動スイッチを押した。
「・・・」
 ところが何も動かない。
 もう一度スイッチを押してみるが、うんともすんとも言わない。何度も押してみたが同じだった。
 もう一度マニュアルを見てみる。
「なお、一番最初の手順を間違えますと、製品は動きません。やり直しはできませんので充分ご注意下さい」
 最後の最後にそんなことが書いてあった。私は最初の手順を間違えていた。マニュアルを片手に、動かない製品をぼんやりと眺め、放心するしかなかった。

                                            了


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