Vol.144   予約席

「わぁー、すごい。よく取れたね」
「君のために苦労したんだぜ」
 彼女は大喜びで、あいつは得意満面だった。俺は歯ぎしりしながら、その様子を横目で見るしかなかった。
 彼女が大ファンの歌手は、全国的に人気のあるトップアーティストで、コンサートのチケットを入手するのも困難だ。
 彼女がファンであるのは、もちろん俺も知っていたし、何とかチケットを手に入れようとしたのだが、無理だったのだ。あいつは恐ろしく周到に準備して、やっとのことでチケットを購入した。俺よりも努力をしていたのだ。悔しいが負けを認めるしかない。
 俺とあいつは彼女を巡って恋のライバルである。この一敗でロスしたポイントはかなり大きいが、何とか挽回するしかなった。

「いいなー、これ。欲しいんだよね」
 名誉挽回のチャンスはすぐに訪れた。女性に大人気のバッグを彼女も欲しがった。俺は必死で手に入れようとかけずり回ったが、どうしても手に入れられなかった。
「えー。本当にいいの。よく買えたね」
 ところがあいつは、そのバックを手に入れて、彼女にプレゼントした。彼女はもちろん大喜びだ。あいつはまたも得意満面、俺は地団駄を踏んだ。
 聞けば、定価の10倍以上、何十万という金を使って購入したのだという。それだけの手間と金を使っているのだ。またしても俺の負けである。認めるしかない。それでもまだ勝負が着いたわけではない。次に挽回するしかない。

「やっぱり美味しいね。よく予約が取れたね」
 彼女はご満悦だ。俺も嬉しくて仕方ない。彼女が行きたがっていたレストランで、2人で食事をしている。今頃、あいつはきっと悔しくていたたまれないことだろう。
 このレストランも大人気の店で、半年先まで予約が埋まっている。あいつも,あの手この手で席を取ろうとそたが、叶わなかった。
 実はここのシェフは俺の学生時代の友人だったのだ。持つべきものは友達である。やっとあいつの鼻を明かし、俺が大きなポイントを得た。
「この店ふだったら、いつでも連れて来てあげるよ」
俺は得意満面だった。

 それから半年後、結局、彼女には振られてしまった。あいつに負けたわけではない。あいつとは必死に競い合った仲だ。ある意味、あいつに負けたのならまだあきらめもつく。
 彼女が付き合うことにした男は、あの人気レストランのシェフだった。

                                            了


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