Vol.141   ステゴザウルス

 そいつは突然やって来た。街の真ん中にこつ然と現れたものだから大騒ぎとなった。騒ぎだけの話しではない。多数の死者と負傷者があふれた。
 何処から現れたのか分からない。本当にこつ然と現れたのだ。恐竜のステゴザウルスだった。見た目はステゴザウルスそのものだ。実は恐竜の色は分からないのだという。図鑑に載っているのは想像で描かれたものだ。それでもそいつは図鑑で見るステゴザウルスそのものだった。
 でも恐竜が現代に生き残っているわけがない。ステゴザウルスそっくりの生物なのか。とにかく大きな恐竜だか怪獣が街で暴れ出したのだから大パニックが巻き起こった。
 警察が出動したが、成す術がなかった。ステゴザウルスが歩くだけで道路がひび割れ、ビルが崩壊した。人々は逃げ惑った。
 本当のステゴザウルスがどれほどの強靭さなのかは分からない。でも、そいつは恐ろしく屈強だった。
 自衛隊が出動し、最初は生け捕りにしようとした。すぐにそんな生易しい相手ではないことに気付かされる。巨大なワナや睡眠弾はまったく役に立たなかった。
 傷つけるのも、殺すのも仕方なしとなった。ミサイルが発射されたが、ステゴザウルスはびくともしなかった。
 遂にアメリカの軍隊が出動した。様々な攻撃が仕掛けられた。日本の自衛隊よりも強力な攻撃だ。それでもステゴザウルスには通用しなかった。
 もはや残された手段は核攻撃のみということになった。さすがにこれには賛否両論があった。それでもステゴザウルスは暴れ続け、遂に核の使用が決まった。
 まさに発射スイッチが押されようとしたそのとき、そいつが現れた。またも突然の出来事だった。暴れるステゴザウルスよりも遥かに大きなもう一匹のステゴザウルスだった。
 これはとんでもないことになった。もはや日本は壊滅する。いや、人類が滅亡するかもしれない。誰もがそう思った。
 ところが、大きなステゴザウルスは、小さなステゴザウルスに何やら語りかけているようだった。まるで親が子供をしかっているようだった。
 するとあれほど大暴れしていたステゴザウルスがシュンとしたように見えた。大きなステゴザウルスが地響きを立てて歩き出すと、小さなステゴザウルスもその後に続いた。
 二匹のステゴザウルスは何処へともなく去って行った。何処へ去ったのかは分からない。もう二度と姿を現すことはなかった。
 こうして世にも恐ろしい、後に「捨て子ザウルス事件」と呼ばれる大騒動は終わりを告げた。

                                            了


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