Vol.139   南下する妖怪

 私の職業は妖怪研究家です。そんなものでメシが食っていけるのかとよく言われますが、最近はゲゲゲの何とかが人気になったりして、意外と人気があるんですよ。静かな妖怪ブームなんです。取材なんかを受けたりします。でもまあ、確かに妖怪の研究だけでは食っていけないわけで、地質学の研究もしているんですが、まあ実はこちらが本職なんですが、これもそんなに儲かる仕事ではなく、どっちにしても貧乏生活に変わりはないんですが。
 面白い妖怪ですか?いますよ。非常に珍しいのが。これ実は大発見なんですよ。いや、見た目は何も珍しいことはないんです。ただの小僧です。一つ目でも三目でもないです。目は二つです。ただの小僧ですから。提灯を持っているので一応、提灯小僧と呼ばれてます。別に何もしやしません。ただ提灯を持って歩いている小僧です。いや、別に祟ったりしませんって。ただ夜道でそんな小僧を見たって話しがあるだけです。夜中に見知らぬ小僧が歩いているので怪しいってだけです。
 発症の地は北海道なんです。宮城県に伝わる話しと言われているんですが、私が調べたところでは北海道が最初なんです。それから東北地方に伝わったわけです。そして宮城県だけではなくて、関東地方にも実は話しが伝わっているんです。ちゃんと文献も残っています。北海道から東北、関東と順番に南の方に伝わっているんです。
 それから東海地方、関西、近畿地方と順番に南に現れるんです。ちゃんと文献が残っているんです。ええ、私が発見したんです。順番なんですよ。順に南下しているというわけです。こんな伝わり方って非常に珍しいんですよ。
 もちろんその次は九州ですよ。九州にも現れました。現れた時期は四国よりも後なんですよ。ちゃんと文献が残っているんですよ。九州地方でも北から南にちゃんと南下しているわけですよ。これは本当に珍しいことなんですよ。
 ええ、そうです。最後は沖縄にも現れました。北海道から沖縄まで南下しちゃったわけですよ。それでどうなったかって?いや、別にどうもなりません。さすがに妖怪は国を飛び越えることはないんです。沖縄にたどり着いてしまったら、もうこれ以上南下のしようがないんです。
 ああ、でも沖縄で少しだけ話しが変わりました。提灯小僧は夜道を後ろから歩いてくるんですが、そして追い越して先に行ってしまうんですが、また歩いていると前にいて、追い越して歩いていると、後ろから来てまた追い越していくんです。それを何度か繰り返すうちに居なくなってしまうんです。別に何もしません。何も言いません。
 でも沖縄に伝わっている話しによると、提灯小僧に追い抜かれ、また追い越そうとすると、提灯小僧が言うんです。
「なんかようかい?」

                                            了


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