Vol.129   春眠暁を覚えず

 日曜日の朝、いつもの時間に目が覚める。でも今日は日曜日。会社に行かなくてもいいのだ。まだ寝られる。そしてウトウトと二度寝をする。これが人生で最高の一時だ。夏では暑くて寝苦しい。冬は寒い。秋もちょっと違う。それが春がなら本当に最高だ。
 昼に起き出して、朝昼兼用の食事をする。特に用事もない日曜日だ。テレビを見たりしながら、ダラダラと過ごす。幸せな一日だ。
 ところが夕方になると憂鬱な気分になる。楽しい曲であるはずの「サザエさん」のエンディングテーマが物悲しく感じる。日曜日が終わりかけていることに気付いてしまうからだ。そして明日は月曜日。会社に行かなければならないからだ。
 この気持ちは30歳を過ぎた今も、小学生の頃も変わりはなかった。基本的に僕は出不精なのだろう。こうやって家でのんびり過ごすのが好きなのだ。
 名残惜しくて、いつもより遅くまで起きている。朝遅くまで寝ていたから、あまり眠くならないせいもある。それでも明日は月曜日。早く起きなくてはならない。あまり遅くなると起きるのはつらい。観念してベットに入る。
 そして目が覚めた。何かいつもと違う感じがする。目覚まし時計を見ると、八時を回っていた。完全に遅刻の時間だ。どうやらタイマーをセットするのを忘れていたらしい。慌てて飛び起き、とりあえずテレビを点ける。いつものニュース番組にチャンネルを合わせる。ニュースを見入っている時間などない。朝のテレビは画面の隅に表示される時間と天気予報さえあればいい。
 ところが、いつもの番組をやっていない。どういうことだと思い、新聞を見る。何と日曜日の新聞だった。ちゃんと新聞受けから取って来たものだ。間違えて昨日の新聞を配って行ったのだろうか。それにしてもテレビまで日曜日の番組をやっているというのはどういうことだろう。
 寝間着代わりのスエットにジャンバーを羽織って駅に向かってみる。駅の周りも平日の朝の様子ではなかった。スーツを着たサラリーマンなど一人もいない。
 結論は一つしかない。今日は日曜日なのだ。確かに昨日も日曜日だったはずだ。何か勘違いしたのか。夢でも見ていたのか。この際、深くは考えないことにした。もう一日の日曜日を満喫しよう。
 そうと決まれば、家に帰り、再びベットに潜り込んだ。昼頃に起き、ダラダラと過ごす。何とも幸せな一日だった。
 夜になると何時にも増して切ない気分になる。それでも明日こそは間違いなく月曜日だ。仕方なくベットに入る。
 そして目が覚めた。再び違和感を感じる。目覚まし時計は八時を回っていた。タイマーはやはりセットされていない。昨夜確かにセットしたはずだ。寝坊したという感覚がない。テレビを点けて、新聞を見る。今日も日曜日だった。念のため外に出てみたが、やはり日曜日の街の雰囲気だった。
 これは異常事態だ。しかし、どうする事も出来ない。再び寝ることにし、ベットに潜り込んだ。昼に起きて、ダラダラと一日を過ごした。
 そして目が覚めた。目覚まし時計は八時だった。でも、今日は日曜日だということが、もう分かっていた。とりあえずもう一度寝ることにする。
 そして何日が経っただろう。いや同じ日曜日を何度繰り返しただろう。ベットに入るとき、もはや切ない気持ちはみじんもなかった。月曜日が待ち遠しい。明日こそ月曜日になってくれ。そう願って眠りに就いた。

                                            了


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