Vol.127   訃報

 音楽が流れている。好きなヒット曲だ。何故・・・。
 そうだ。携帯電話が鳴っているのだ。枕元の目覚まし時計を見ると時刻は3時44分だった。同じく枕元に置いてある携帯を取り上げた。着信表示は元の会社の先輩からだった。
「・・・はい」
「ああ、悪いな、こんな時間に」
 昨日、飲み会だったこともあり、ぐっすりと眠っていた。まだ半分寝ているような感じだった。それでも先輩が大した用事もなく、こんな夜中に電話をしてくる人ではないことは理解していた。
「実は佐藤が亡くなったんだ」
「えっ・・・」
 僕は絶句した。元の会社の先輩で、まだ四十歳そこそこの年齢のはずだ。病気をしていたという話しも聞いていない。何ヶ月か前に会ったときは、変わらず元気だった。
 僕は三年前に元の会社を辞めて、今の会社に入った。辞めた理由はいろいろあるが、同僚たちとは仲が良かったし、不義理をして辞めたわけではないから、今でも年に何回か飲みに行く程度ではあるが、付き合いがあった。
「お前には知らせておいた方がいいと思って」
「ええ、ありがとうございます」
 当然、お葬式には顔を出さなければいけないと思っている。今は会社が違っているから、連絡をもらわなければ分からないところだった。本当に知らせてくれて良かったと思う。
 電話を切って、僕は再び眠りに落ちた。本当ならば眠っていられるような状態ではないが、とても現実のことと思えなかったし、夢の中の出来事のような気もしていた。
 目覚ましの音に飛び起きた。変な時間に起こされたので、危うく寝過ごすところだった。夜中の電話は朧げに覚えている。時間もなかったので、とにかく黒っぽいスーツを着て、黒いネクタイを持って出かけた。
 会社に行けば、当然のことながら、仕事に追われた。ようやく落ち着いたのが午後3時くらいだった。
 僕は元の会社の先輩に電話をした。
「そうなんだよ。びっくりしたよ。お前、よく知ってるな」
「昨夜、連絡をもたったので」
 真夜中で突然のことだったので、何か変な感じがしていたのだが、やはり昨夜の電話は夢でも何でもなく、本当の事だった。
 お通夜の場所の地図をFAXしてくれるという先輩に礼を言い、会場で落ち合う約束をして電話を切った。
 上司に事情を説明し、定時で会社を出た。お通夜に向かい、お焼香を済ませて、先輩と落ち合った。元の同僚数人で近くの居酒屋に入った。
「突然だったなあ」
「昨日の夜中だったそうだよ」
「原因はよく分からないんだけど、突然の心臓発作みたいだ。朝、家族が見つけたそうだけど、驚いただろうなあ」
 僕は皆の話しを聞いていて、何か違和感を覚えた。
「あの佐藤がなあ・・・」
「あっ」
 僕はその違和感の正体に突然気がついた。あの声は間違いなく・・・。
 携帯を取り出し、着信履歴を見る。3時44分、佐藤先輩からの着信だった。丁度、先輩が亡くなった時間だった。

                                            了


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