「おじいちゃん、妖怪って本当にいるの?」
「ああ、いるよ」
「でも、お父さんはいないって言ってたよ」
「いないと思えばいないし、いると思えばいるんだよ」
「えー、分からないよ」
「妖怪は人の心に住むんだよ」
「分からない」
「そうかい。まあ仕方ないね」
「おじいちゃんは妖怪を見たことがあるの?」
「えっ、いつ?どこで?怖くなかった?」
「怖くはないよ。姿は不気味でも、私たちと何も変わりはないんだよ。そうじゃな、あれは、お前が生まれるずっと前、お父さんもまだ生まれていなかったな」
私はあせっていた。まったく始めて来た田舎道で迷ってしまった。宿は予約してあるのだが、たどり着けない。とっくに日は落ちて、辺りは完全に闇に包まれていた。
道端に怪しい人影があった。いや、人ではない。何か動物だろうか。いや、あんな動物は見たことがない。まさか・・・。
「すいません・・・」
その異形のものが話しかけてきたので、私は腰が抜けそうなほど驚いた。
「怖がらないで下さい。こんな奇妙な姿をしていますが、怪しいものではありません」
怪しくないわけはないのだが、言っていることは分かったので、私は耳を傾けた。本当は逃げ出したかったのだが、足がすくんで動かなかった。
「食べ物を持っていませんか?もう3日も何も食べていないんです」
私はたまたま持っていたパンをあげた。その異形のものはパンをむさぼり食べた。
「・・・ありがとうございます」
パンを喉に詰まらせたようなので、持っていたペットボトルの水もあげた。
それから、彼は身の上話しを初めた。
「私たちは高度な文明を持っていたのです。しかし、戦争が起きました。馬鹿なことをしました」
核兵器という莫大な破壊力を持つ爆弾で、彼らの世界は破滅したそうだ。彼はその爆弾の威力で次元を超えて、ここに飛ばされたということだ。
別の次元とは何処なのだろう。他の星から来たのか、あるいは・・・。
彼の言う核爆発は、私たちの伝説にあるビッグバン、すべての始まりの大爆発に似ている。
私たちの生まれる前に、別の文明があったという伝説だ。その文明が滅び、私たちの文明が始るときにビッグバンがあったという言い伝えがある。
言葉が通じるということは、彼は遥か昔から時を超えて飛ばされてきたのかもしれない。
「どんな姿をしているの?」
「手も足も2本しかなかったよ。目も2つだった」
「えっ、たった2本」
「体には布をまとっていたが、顔の色は肌色で、頭には黒い毛が生えていた」
「そんな生き物見たことないよ。やっぱり妖怪だよ」
「見た目は奇妙でも、心は同じ人間だったよ」
了