Vol.122   世界大会

 世界中の人が待ちに待っている4年に1度の祭典である世界大会がいよいよ近づいてきた。大昔からスポーツの世界ではオリンピックがあり、ワールドカップがあり、世界中の人々の心を熱くしてきた。
 そんな何百年も前のことは分からない。でも、今の世界大会の盛り上がりには遠く及ばなかったに違いない。何せ、この世界大会で世の中の物事のすべてが決まるのだから。
 人類がどんなに発展しても戦争はなくならなかった。むしろ人は戦争をすることによって進化してきたといった方がいいのかもしれない。人口は増え、環境破壊が進んだ。軍事兵器も発達してきたから、更に国同士が争えば、人類が滅亡する。それはもう時間の問題と思われていた。
 そうして人類が滅んでしまうことが地球の環境のためには一番いいことだと思えるのだが、人類は最後の最後で踏みとどまった。
 残り少なくなった資源を戦争で取り合うのではなく、世界大会で競い、分配することにしたのだ。各国の代表が戦い、成績に応じて各国の主張が認められる。優勝すれば豊富な財を手にできるが、1回戦で負ければ貧しい国へと転落する。
 人々はその取り決めを守り、世の中から戦争はなくなった。そして世界大会は人々の最大の娯楽にもなった。競技場で観戦するためのチケットは抽選で購入できるが、これに当選するのは宝くじの1等にあたるよりも確率が低い。当然、世界中にテレビ中継されるが、視聴率は100%である。
 俺も毎回、世界大会を楽しみにしてきた。我が日本は常にそこそこの成績を残してきた。最高でベスト8、悪くてもベスト32というところで、世界では中流の位置づけだった。
 世界大会が終わると、人々の興味はすぐに4年後の世界大会に移る。俺もそうして4年前から今回の世界大会を楽しみにしていた。それが一変したのが1年前である。
 世界大会の代表者は各国1人のみである。代表者はコンピューターによって決められる。どの国にとっても平等になるように、体力がまったく同じ者が選ばれる。それが大会のちょうど1年前なのだ。
 まさかと思っていたが、俺が代表に選ばれてしまったのだった。生活が一変した。代表選手は最高のヒーローなのだ。日本の将来のすべてが俺にかかっているわけだ。国中の期待を一身に集める存在だ。そして世界大会でいい成績を残せば真のヒーローとなり、負ければ一斉に不満を浴びせられることになる。
 俺は1年間、練習に明け暮れた。その間の生活の保証はもちろん国がしてくれる。待遇はVIP待遇だ。どの国でも代表選手は同じ扱いを受けた。条件は平等なのだ。
 そしていよいよ世界大会開幕の日を迎えた。俺は大歓声の中、競技場に立った。スタンドの客席は超満員の観衆で埋まっているが、競技場のフィールドは文字通りただの広場である。
 俺の前には対戦国の代表選手が立っている。パンツ1枚の姿だ。もちろん俺も同じ姿だった。ゆっくりとフィールドの中央に歩を進める。相手も近づいてくる。歓声が渦巻いている。
 競技のルールはシンプルだ。ただ相手を倒すだけ。反則は何もない。相手が倒れて立ち上がれなくなり、自分が立っていれば勝ちだった。
 殺したって構わない。実際、半数以上の選手が命を落としている。例え生き残ったとしても、負ければ国中の非難を浴びる。耐えられずに自殺する人も多い。命懸けの戦いなのだ。
 戦って、勝って、生き残るしかない。逃げ道はないのだ。相手が目の前に迫ってきた。ものすごい形相をしている。きっと俺もあんな顔をしているのだろう。
「うぉーっ!」
 俺たちは雄叫びを上げて組み合った。

                             了


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