Vol.121   クラス会

 10年振りのクラス会だった。中学のときの同級生だ。ほとんどの人が小学校、中学と同じ学校に通っていた。子供時代の9年間を供に過ごした仲間だ。3クラスしかなかったし、毎年クラス変えがあったから、組み分けなどあまり関係なく、3クラス合同の開催だ。
 成人式のときに久し振りに集まって、クラス会をやろうという話しになり、実現したのが22際の頃だった。それから10年が過ぎ、どういうわけか、また集まろうということになった。
 僕は勉強が出来たわけでもなく、スポーツが得意だったわけでもなく、中心的な存在だったわけでもない。今もその性格は変わらず、先頭に立って何かをやるというタイプではない。
 幹事は別の奴だ。中学のときもリーダー的存在だった奴で、前回もそいつが幹事をしていた。何年立っても、子供の頃の性格はそんなに変わるものではないのだろう。
 だからどうしてクラス会をやることになったのかは知らない。中学時代の友達で、今も付き合いがある奴もいなかったから、誰が来るのかも分からなかった。ただ声をかけてもらって嬉しかった。懐かしさが込み上げてくる。
 仲の良かった友達と久し振りに会えるのも楽しみだ。10年前のときもそうだったが、何年の時が経っていても、一瞬で当時に戻ってしまえる。
 女の子と会えるのも楽しみだ。僕はまだ独身だから、そんなことを思うのかもしれない。もう30歳を過ぎているわけだから、結婚して、母親になっている人も多いだろう。自分も立派なおじさんになっているわけだが、それは棚に上げておいて、がっかりする程おばさんになっていたらどうしようなんて思ったりもする。
 そして、密かに憧れていたあの子は来るだろうか?10年前は来なかったから、もし来れば20年振りということになる。実はそれが一番楽しみだったりする。そして迎えたクラス会当日、会場に入った。
「おお、久し振り」
 すぐに、仲の良かった奴の顔を見つた。やはり一瞬であの頃に戻ってしまう。そいつと話しながら、他の奴らとも言葉を交わす。あの頃の記憶が蘇ってくる。男子は分からないほど変わっていた奴はいなかった。だいぶ腹が出た人、ちょっと髪の毛が寂しくなった人はいたが、話しをすれば、あの頃とまったく変わっていなかった。
 そうして楽しく話しをしながら、女子の集団にも目がいった。皆、思っていたより綺麗だったので驚いた。誰なのかまったく分からない子もいた。聞いてみると、思い出して、それでも記憶にある中学生の姿とはまったく結びつかなかったりした。
 あの子のことはすぐに分かった。予想していた通り、いや予想以上に綺麗になっていて嬉しかった。もちろん20年間、ずっと彼女のことが忘れられずに独身でいるわけではない。他に好きになった子もいるし、付き合った女性もいる。それでも心の底に仄かな思いはずっとくすぶっていたのだろう。
 だいぶお酒も入り、席を変わる人も多くなり、女の子とも話しをした。中学時代よりはだいぶスムーズに話せるようになったようだ。2次会にもほとんどの人が参加した。皆、懐かしく思っているのだろう。本当に楽しいひと時だった。
 そして2次会の最後の最後で、あの子が僕の前に座った。ずっと席が離れていたのだ。僕から話しかけるなんて、とても出来なかった。中学時代もほとんど話しをしたことなどなかった。どの女の子よりも話しをしたかったのに、どの女の子よりも話しができなかった。
「○○君、元気だった?」
 それが、あの娘が僕の名前を呼んで話しかけてくれたのだ。もしかしたら僕のことなんて覚えていないかもしれないと思っていたが、ちゃんと覚えていてくれたのだ。
 彼女の隣に座っていた子と三人で少し話しをした。実はその隣の子だけが、僕にはまったく記憶がなかった。彼女とはずっと一緒にいて、だから話しもしていなかったのだが、僕には彼女の名前も思い出せなかった。
 そして楽しかったクラス会もお開きということになった。2、3分だったけど、彼女と話しが出来て、僕はとても幸せな気分だった。
「○○君、手を出して」
 店の外に出ると−−あの子だったらもっと嬉しかったのだが、あの子ではなく、彼女の隣にいた子が話しかけてきた。
 やはり彼女のことはまったく思い出せなかったので、僕は戸惑いながらも手を出した。
「はい」
 手のひらにゴマのようなものを乗せられた。よく見ると蟻だったので、僕はちょっと驚いてのけぞった。
「私、小学校のときに○○君にこれをやれれて、泣かされたんだから、20数年振りに復習してやったわ」
 彼女は嬉しそうに言うと、そのまま歩き去った。
 一体、どこから蟻を持って来たのだろう。僕が女の子にそんな意地悪をしたなんて、まったく記憶がない。そして彼女のことは、やはりまったく思い出せなかった。

                             了


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