怪獣が現れた。場所は東京湾。漫才のネタで、怪獣はどうして突然現れるのか?あんなに大きなものが東京湾にたどり着くまで誰も気づかないのか?という話しがあったが、実際には突然現れた。何処からどうやって東京湾に来たのか、誰も気づかなかった。まさに突然現れたとしか思えなかった。
突然現れたのに何故か名前が付いている、という話しもあったが、実際は、怪獣は怪獣と呼ばれた。実際に現れてしまったからには現実であり、怪しくもなんともないのだが、風貌がテレビで見る怪獣そのものだったから怪獣と呼ばれた。唯一無二の存在であり、怪獣以外の呼び名は必要なかった。
テレビでは巨体ヒーローが現れて怪獣を退治してくれるのだが、実際にはヒーローなど存在しない。怪獣が現れたのだからヒーローが現れても良さそうなものだったが、実際は現れなかった。
地球防衛軍などというもの実在はしない。警察では対処できなかったので、自衛隊が出動することになった。しかし、現実にはいろいろな問題があり、自衛隊が怪獣を攻撃していいものかどうか、指揮官である総理大臣は判断できなかった。
幸いなことに怪獣は特に暴れるわけではなく、ただ東京湾に現れただけだったから、何の被害も出ていない。自衛隊は遠巻きに怪獣を包囲して事態を見守るだけだった。
野次馬が大勢押しかけた。警察にできることは、その野次馬を整理することくらいだった。
警察の制止を振り切って、一人の男が怪獣に近づいていった。我々人間も怪獣も同じ生き物であり仲間である、というのが彼の主張だった。
「友よ、さあおいで」
叫びながら、近づいて来た彼を、怪獣は無造作に踏み潰した。
突然、野次馬が逃げ惑い、パニック状態に陥った。多くの負傷者と死者まで出る始末だった。
それでもその後、怪獣は暴れるわけでもなかったので、総理大臣は攻撃命令を下せなかった。ただ一般人の立ち入りを禁止して、事態を見守った。
動物愛護団体がやって来て、警察の警備を突破し、怪獣の周りでデモ行進を始めた。
「怪獣を虐待するな」
叫びながら行進するデモ隊に向けて、怪獣は火を吹いた。デモ隊は一瞬のうちに黒こげとなり、全滅した。
遂に総理大臣が怪獣攻撃の指令を出した。皮肉なことに動物愛護団体の行動で、世論が怪獣攻撃やむなしという方向に流れたのだ。
砲撃を浴びた怪獣は忽然と姿を消した。
一体、あの怪獣は何だったのか、テレビで連日特集番組が組まれた。いろいろな学者や評論家が登場したが、誰も真相を語ることはできなかった。
「今度はあなたの町に突然、怪獣が現れるかもしれません。我々はそのときに備えて何をすればいいのか考えておかなければならないのではないでしょうか」
特番は司会者のそんな言葉で締めくくられた。
そして、とある町中に怪獣が現れた。町の人は何をすればいいのか、まったく考えていなかった。ただ呆然と立ち尽くすのみだった。
それから3ヶ月−−−
「本日の怪獣予報です。東京の出現率は70%です。充分にご注意下さい」
怪獣はあちこちに突然現れ、突然消えた。被害者が出ることもあったが、怪獣の出現はもはや日常の出来事となっていた。
「どうだ、地球の様子は?」
「なかなか興味深い結果になりました」
「ほう。当然のこととして受け入れたということか」
「ええ、初めてのケースですね」
「環境適応能力がかなり高いといえますね」
宇宙の何処かでは、地球人より進んだ科学力を持ち、研究に余念のない科学者が、今日も研究に励んでいるのだった。
了