Vol.103   サンタの嘆き

「まったくつまらない世の中になったもんだ」
サンタクロースのおじさんが、持っている袋を見つめて、ため息をつきました。
 プレゼントの数は年々減っていき、昔は袋にぎっしりのプレゼントがあったのですが、今では、せっかくの大きな袋も中身はスカスカでした。
 子供たちが本当に願い、日ごろ良い子にしていれば、願いはサンタのおじさんに届くのです。そしてクリスマスイブの夜、そんな子供たちにサンタのおじさんはプレゼントを配りに行くのです。
 でも、今はサンタを信じない子供が増え、プレゼントはお父さん、お母さんが買ってくれるものと思っている子供たちが増えました。昔は子供にクリスマスプレゼントも買ってあげられないほど貧しい家庭も少なくなかったのですが、今ではそんなに貧しい家庭はほとんどありません。
 少なくなったプレゼントも、ほとんどがゲーム機です。昔の子供たちの願いは様々でした。それぞれの思いで個性のあるプレゼントを願ったものでした。確かに人々の暮らしは豊かになりました。それに伴って、人々の心の中身も豊かになっているのでしょうか?
 それでも、仕事もだいぶ楽になりました。昔は大急ぎでプレゼントを配って回らなければならなかったのですが、今ではそんなに慌てなくても充分に間に合います。
 プレゼントを配って、子供たちの寝顔を見て、明日の朝、目覚めたときに喜ぶ様子を想像すると、サンタのおじさんは嬉しい気分になります。
「お前もだいぶ楽になっただろう」
 サンタのおじさんがトナカイに話しかけました。トナカイはもちろん何も答えません。
 トナカイにとっても寒空の中、たくさんの家を走り回るのは重労働なのですが、今ではゆっくりといくつかの家を回ればいいので、鼻が赤いのも治ってしまい、喜んでいるのかもしれません。
「さて、あと3人、この家か」
 残りのプレゼントは3個だけでした。ここは古びた孤児院で、ここに住む3人の子供たちへのプレゼントです。
 サンタのおじさんはトナカイのそりから降りて、煙突に足をかけました。
 煙突のある家も今ではほとんどなくなってしまい、窓やドアから家に入らなければならないのですが、この建物はかなり古く、まだ煙突がありました。
 サンタのおじさんはもちろん窓やドアからこっそり入ることもできるのですが、長年、煙突から入ることに慣れていましたから、やはり煙突があると嬉しくなってしまいます。
 煙突を降りて、暖炉に出ると、何かに引っかかってしまいました。
「来たぞー!」
「サンタだ!」
「捕まえた!」
 暖炉には網が仕掛けてありました。網にはべルがついていて、サンタさんが動くとチリンチリンと鳴りました。子供たちがベットから飛び起きて叫びました。サンタを見ようと仕掛けていたのでしょう。
「こら、騒ぐんじゃない」
 サンタのおじさんは子供が仕掛けた網など簡単に抜け出しました。
「いい子で寝ていないとプレゼントをあげないぞ」
 サンタの姿を一目見たいという子供たちの思いは分かります。でも、子供が寝ていないとプレゼントは渡せないのです。
 興奮する子供たちを何とかなだめ、寝かしつけて、プレゼントを置くと、サンタさんはまた煙突から出ていきました。
「やれやれ」
 思わぬところで手間取ってしまいましたが、これで今夜のお仕事は終わりです。
「それ」
 サンタさんはトナカイをけしかけ、空に飛び立ちました。
 しばらくすると、空になったはずの袋がモゾモゾしているのに気づきました。
「ワー」
 サンタさんが袋を開けると、中からさっきの子供たちが顔を出しました。
「やっ、いつの間に」
 子供たちは寝たふりをして、こっそり袋に隠れていたのです。
 サンタさんは慌てて引き返し、今度こそ本当に子供たちを寝かしつけ、家路につきました。
「まったく、とんでもない悪ガキどもだったな」
 サンタさんはつぶやきましたが、顔は微笑んでいました。親がいないのに、こんなに元気に過ごしている子供たちのことが、サンタさんは好きなのでした。

                             了


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