Vol.102   砂漠

 地球の砂漠化が問題となって、数年が経つ。単なる環境破壊というような生易しい問題ではない。一夜にして一つの町が廃虚となってしまうのだから。
 この現象は世界中で起きている。だから世界中の政府が、科学者が必死になって対応策を講じているが、今だに有効な手段は見つからなかった。何故、ある日突然、一つの町が砂漠となってしまうのか、その原因すらつかめていないのだった。
 それは本当に突然のことだった。最初はアメリカはテキサス州の町だった。まだ農地も多く残る田舎町だったが、前日まではいつもと何の変わりもなかった。ところが、一夜明けた次の日、町は突如として砂漠となっていた。町も人も、すべて砂の下に埋まっていた。
 そして一週間ほどしたある日、突如として砂漠は消えた。再び姿を現した町は廃虚と化していた。同時にヨーロッパのある町が砂漠となった。
 以来、世界中の町に突如として砂漠が出現し、町が滅ぶという現象が続いている。実は世界に報道されなかっただけで、アメリカの前にも何処かの国でこの現象は起きていたのかもしれない。
 日本も例外ではなかった。もう十以上の町が、砂漠となり、滅んでいた。ジャーナリストであり、気象や地質学といった知識も豊富だった俺は、この大事件を追い続けている。
 本当に深刻な問題だと思っている。このままこの現象が続けば、数十年後には世界が滅亡してしまうのだ。取材をしながら、何とか解決の糸口をつかみたいと思っている。しかし、まだ何の手がかりもなかった。
 ほとんど休みなく、寝る暇もないほどに働いている。こうして自分の家に戻って来たのも1ヶ月振りだった。
 疲れが相当溜まっていた。今夜ばかりは何も考えずにゆっくり眠りたい。まともに蒲団に入って眠るのも久し振りなのだ。
 風呂に入って、だいぶ疲れも取れた気がする。冷蔵庫から缶ビールを取り出し、栓を抜く。ベランダに出て、一口。本当に生き返ったような気分だ。
 夜風が心地良かった。もう一口ビールを飲む。風が強くなった。肌に何か嫌な感じがした。頬を触ってみる。手がザラッとした。
 砂だ。風に混じって砂が舞っていた。風がどんどん強くなった。もはや砂嵐だ。まともに目を開けていられないほどだった。
 まさか・・・。そして俺は見た。砂嵐の中に砂の巨人がそびえ立っているのを。砂の巨人がゆっくりと崩れた。町が砂に埋まった。

                             了


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