「博士、大変です」
「どうした?」
「卵に反応が・・・」
「何、すぐ行く」
遂に長年の研究が実るときがきた。いや、油断は禁物だ。これまで数十年、人生のすべてをこの卵に賭けてきたと言っていい。ここでミスがあってはすべてが台無しになる。
「見て下さい」
「おお」
卵がブルブルと震えていた。本当に何かが生まれるのかもしれない。
白いだ円形の卵だ。にわとりの卵とまったく同じ形だ。違うのは大きさである。高さが1メートルほどある。
この卵に出会ったのは私がまだ20歳そこそこの頃だった。研究所の近くにある山奥で発見された。こんなに大きな卵など前代未聞だったから、この卵を研究することにした。
卵の殻は、地球上には存在しないまったく未知の物質だった。これだけでも大発見なのである。割ってみようとも思ったのだが、ものすごく堅くて、割ることができなかった。
しかし、それが良かったのだ。中に生体反応があることが分かった。そこまでで20年の月日が流れていた。
卵をかえしてみようと思ったが、どうすればいいのか分からない。卵なのだから暖めるのが一番確実な方法だろう。しかし、何度で暖めればいいかが分からなかった。
とりあえず人の体温である36度で暖めてみた。卵に変化は見られなかった。生体反応は続いていた。
温度を上げてみることも考えたが、生体反応が途絶えてしまうことが怖くて、思い切れなかった。
そして30年が過ぎた。もはや生きているうちに卵がかえるところは見られないかもしれない
とあきらめていた。ところが・・・。
卵がブルブルと大きく震えている。
「ああ、博士」
「おお」
卵の天辺から立てに亀裂が走った。そして亀裂は見る見るうちに左右へと広がっていった。
「ああ」
殻がパラパラと崩れ落ちた。
中から現れたのは卵だった。外側の卵とまったく変わらない大きな白い卵が生まれた。
「生体反応があります。博士、どうしますか?」
「人の体温で暖め続けよう。私の生きているうちには生まれないかもしれない。後は君にまかせたよ」
了