Vol.92   希望の種

 最初は信じられませんでした。自分の夢が叶う実が成る種があるなんて。でも、ただでもらったわけだから。植木鉢に入れて、毎日水をあげればいいだけというし、育ててみてもいいかと思ったんです。1ヶ月ほどで実が成りました。赤い苺くらいの大きさの実でしたね。僕の夢ですか。ええ、その実を僕の憧れの女性にプレゼントしたんですよ。健康にいい珍しい果物があるからと言って。そうしたら、彼女が僕のことを好きだと言ってきたんです。すぐに結婚することになりました。ええ、幸せに暮らしてますよ。あの実は本当に夢が叶う実だったんですね。

 まったく信じてはいませんでしたよ。夢の叶う実の種だなんて。そんなもの買えといわれたって、買いやしません。でも、もらったんですよ。育て方も簡単だったし、家にあった植木鉢を使って、あとは水をあげるだけでしたから、お金もほとんどかかっていません。1ヶ月ほどで実が成りました。みかんほどの大きさの青い実でした。さて、この実をどうすればいいのかと思っていたら、その実を売ってくれという人が現れたんです。何と1千万円で買うというしゃありませんか。信じられませんでしたけど、現金を目の前で積まれましたから、売りましたよ。もちろん。その1千万円をもとに、会社を作って、大成功しました。大金持ちになりたいという夢が叶ったんです。

 1千万円なんて安いものです。噂を聞いたんですよ。夢が叶う実があるって。それを持っている人がいるって。僕のことは知っているでしょう。プロ野球のエースピッチャーですからね。ただ昨シーズンはまったく駄目でした。実は肩を壊してしまったんです。もう引退かと思いましたよ。でも、何とかもう一度活躍したかったんです。それで、夢が叶う実を買って、それをボール代わりに練習したんです。そうしたら、肩の調子が良くなって。今年は開幕5連勝ですよ。おまけにノーヒットノーランまでやりました。夢が叶う実は本当の話しだったんです。あっ、僕のことは内緒ですよ。

 噂には聞いていましたよ。そりゃあ、どうしたって手に入れたいですよ。全財産をはたいたっていいと思いました。あいつに勝てるなら。ところが人づてに聞いたら、夢が叶う実が成る種は簡単にもらえるというじゃありませんか。紹介してもらって、種をもらいました。緑色のりんごくらいの実でしたね。それを神棚に飾って、毎日お祈りしました。おかげで選挙に勝ちました。ずっと負け続けてきたあいつに勝ったんです。種をくれた人にお礼をしに行きました。でも、あの人は一切、お礼を受け取ってくれませんでした。まったく奇特な人です。

 えっ。どうして夢が叶う実が成る種を人にただであげてしまうかって。それは、私の夢を叶えるためですよ。だって、種を上げた人は皆、私にすごく感謝して、私のためなら何でもするから、何かあったら何でもいってくれと言ってますから。私の夢ですか。そんあこといえるわけないじゃないですか。(世界征服が私の夢だなんて)

                             了


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