朝が来た。マサミチは目を覚ました。
俺はどうして旅をしているのだろう。疑問を感じる。
剣の腕には自身があった。しかし、こうも多くの魔物と出くわすのでは、いつ命を落とすか分かったものではない。
その不安な世の中に平和を取り戻すために旅をしているのだが、はっきりとした目的があるわけではなかった。どうすれば魔物のいない平和な世の中になるのか、今はそれも分からなかった。ただ、町を訪れ、人に話しを聞き、得らた情報を元に次の町に進む。その繰り返しだ。いつか何かをつかめるかもしれない。当て所のない旅だった。
幸い、旅の途中で仲間に巡り合った。それが救いである。もし一人だったら、とても耐えられないだろう。
「おはよう」
ユリも目を覚ましたようだ。神秘的な目をした美しい女性だ。弓の名手で、薬草の知識も深い。魔物と闘い、怪我したときなど、彼女の存在は大いに助かった。
そして、マサミチはユリのことが好きだった。気持ちは打ち明けていないが、ユリもマサミチのことを憎からず思っているように感じられる。今は旅の途中だから彼女とどうこうということは考えていないが、、この旅が終わったら何かが変わるかもしれない。
「今日はどうする?」
シゲオも起きたようだ。見上げるような大男で、物凄い怪力の持ち主だ。気のいい奴だ。魔物との闘いには大きな戦力だった。
「昨日の町で会った占い師が東の井戸に行けと言っていたじゃん」
答えたのはクニヒコだった。やはりこの旅で知り合った少年だ。魔術を操る不思議な少年だ。
「さあ、行こうか」
この4人が旅の仲間だった。何となくマサミチがリーダーのようになっていた。
宿屋を出ると早速、魔物が襲って来た。狼に似た生き物で、鋭い牙で攻撃して来る。
俺は剣、ユリは弓で応戦する。シゲオは武器など使わない。頑丈な体と怪力に物を言わせ、素手で魔物を殴り倒す。クニヒコは魔術で闘う。
魔物を倒しながら東に進むと、占い師の言っていた井戸があった。
「ここだな」
「そうね」
マサミチたちは井戸の中に入って行った。
中は迷路のようになっていた。あちこちに魔物も潜んでいた。ここまで歩いて来たときに出くわした魔物よりも数段、手強かった。
「おい、どうして俺たちはこんな危険な旅を続けているんだ?」
シゲオもマサミチと同じ疑問を感じているようだった。
「私、不思議に思うんだけど、この旅を始める前に何をしていたか、まったく記憶がないの」
ユリの言葉はマサミチを愕然とさせた。今まで気ずかなかったが、マサミチも同じだった。
旅に出る前何をしていたのか、何処で生まれたのか、どんな少年時代を過ごしたのか、マサミチはまったく覚えていなかった。
「僕もそうだよ。気がついたら、旅をしていた。以前の記憶は何もないんだ」
クニヒコも同じだった。
「どういうことだ。俺たちは旅をするために突然、世の中に現れたっていうのか?」
マサミチは叫んだ。何ともいえない不安にとらえられていた。
「来たぞ」
魔物が現れた。今はそんなことを考えている場合ではなかった。闘わなければ命がない。
魔物を倒しながら、何とか迷路を抜けた。ちょっとした広場に出た。祭壇のようなものがあり、宝箱が置いてあった。
宝箱を開けると、中には古びた鏡が入っていた。手に取って調べてみたが、何の変哲もない鏡だった。
「名にの意味があるんだろうな?」
4人の誰にも分からなかった。近くの町まで持って行って、誰かに話しを聞いてみるしかない。こういうものは後で役に立つときがくる。まさみちkにはこれまでの旅の経験で分かっていた。
「おい」
さすがにシゲオの声も震えていた。
何処から現れたのか、目の前に巨大な魔物が立っていた。これまで見たこともないほど凶悪な風体だった。
4人は力を合わせて必死に闘った。しかし、魔物は恐ろしく強かった。
クニヒコが倒れ、ユリが倒れた。シゲオもやられた。そして遂にマサミチも力尽きた。
「おう、茂雄か」
正道の携帯電話が鳴った。茂雄からだった。
「えっ、新しいゲームか。ちょうど今やっていたところだよ。全滅しちゃってさ」
「うーん、前作よりも面白いかな。そう、AIが売りなんだよ」
「そうだな。でもAIってどういう構造なんだろうな。人工知能ってやつ。コンピューターが知能を持って考えるんだろ。ああ、登場人物が考えて闘うんだ」
「ああ、そうだな。じゃ、また連絡するよ」
正道は携帯電話のスイッチを切り、ゲーム機のリセットボタンを押し、ゲームを再開した。
朝が来た。マサミチは目を覚ました。
了