Vol.87   神々の国

 神様とか天使とか悪魔とか、そういうものは実在する。絶対に人間からは見えないはずなのに、不思議なもので彼らはだいたい人間が想像している通りの姿形をしており、想像通りのことをしている。ただ一つ違っているのは彼らも決して万能ではなく、間違いもするということだ。
 ある神様は人間の命の管理をしている。彼が蝋燭に火を灯すと人が生まれ、蝋燭の火が燃え尽きたとき、人の命も終わる。
 彼は人間の間では日本と呼ばれる国を担当していた。もう200年ほどこの仕事を担当している。神様の寿命は人よりも長いが、決して不老不死ではない。彼もだいぶ年を取り、仕事の手も遅くなった。それが最近問題となっている少子化の原因である。
 神様がまだ幼く子供の頃には天使と呼ばれている。今日は天使たちが社会科見学で彼のもとを訪れた。天使はまだ子供なので無茶なことを平気でやる。それは人間の子供とまったく同じであ る。蝋燭の火がついていれば、吹き消したりする。それが人の命を奪う行為だとしても知ったことではなかった。神様は天使に注意したり、消された火を慌てて点けたりしているが、彼も年老いたため、すべてに目が回らなくなった。それが突然死の原因である。
 天使はある程度大きくなるとアルバイトをするようになる。最もポピュラーなアルバイトが人間の恋愛の管理である。弓矢を持って人間のハートを射るのである。最近、天使たちのモラルの低下が問題となっている。人間の社会で少年の非行が問題となっているのと同じ現象である。彼らは気まぐれに男の矢で男のハートを射ったりする。するとその男はオカマになる。
 悪魔が人間に悪事をささやいている場面に出くわすと、天使は本能で悪魔に対抗し、人間に思いとどまるよう説得する。悪魔も負けじと悪事をささやき、天使も意地になって引き戻そうとする。天使と悪魔が耳元でささやき、人が迷うというのは本当にあることなのだ。どちらが勝つかは、その天使と悪魔による。天使が勝つ場合もあれば、悪魔が勝つ場合もある。人間が誤って悪 事を犯してしまったとしても、それはたまたま悪魔が勝ってしまったからであり、運が悪かったとしかいいようがない。
 ある神様は神社で人間のお願いを聞いている。お賽銭の金額で願いを叶えるか叶えないかを決めているわけではない。基本的には人間の願いを叶えてあげるのが神様の仕事である。ただ神様にも出来ることと出来ないことがある。あまり無茶なお願いをしても無理である。
 神様は一人でいくつかの神社を担当しているから、常に神様が聞いているわけではない。いたとしても居眠りしている場合もある。願いが叶えられるかどうかは、まったくの偶然なのだ。
 基本的に神様は人間が良い行いをするように監視している。悪魔は悪の道に引き込もうと狙っている。彼らも万能ではないから、常にすべての人間に目が届いているわけではない。神様の中にも優秀な神様がいれば、駄目な神様もいる。悪魔も同じである。
「この世に神はいないのか」と嘆くことはない。神様は基本的には見ているのである。見逃されていないか、ちゃんと優秀な神様が見てくれたのかということになると、それは運としかいいようがないが、人は基本的に正しい行いをしていればいいのである。

                             了


BACK