Vol.86   三太郎輪廻転生

 浦島太郎は、竜宮城で欲望の趣くまま遊びにふけった。酒を飲み、豪華な食事をむさぼり食い、女性に淫らな行為に及んだ。その行為が、時空間管理局の人権保護委員会で問題視された。

「まったくハレンチ極まりない行為です」
「亀を助けたことは評価できますけど」
「しかし、あまりに節操がなさ過ぎます。相手の好意を踏みにじる行いです」
「同感です。良い行いというものは見返りを求めないものです」
「特に、女性を侍らせて満足するなんて、女性蔑視です」
「やはり、有罪でしょう」
「異論はありませんか?」
「では、処罰はどうしますか?」
「死刑です」
「いや、初犯ですし・・・」
「そうですね。では、寿命を30年縮めるというのはどうでしょう?」
「妥当なところではないでしょうか」
「よろしいですね。では、これにて閉会します」

 浦島太郎が玉手箱を開けると刑が執行され、あっという間におじいさんになってしまった。
 浦島太郎はその後、竜宮城で我を忘れて遊びふけってしまったことを後悔する日々を過ごし、失意のうちに、残り少ない生涯を終えた。そして生まれ変わり、金太郎になった。

 金太郎は、村一番の力持ちだった。熊を相撲で投げ飛ばし、嫌がる熊にまたがって、お馬の稽古をした。その行為が、時空間管理局の動物愛護委員会で問題視された。

「動物虐待以外の何物でもありません」
「まったく同感です」
「弁解の余地はないようですね」
「処罰はどうしますか?」
「死刑だ」
「いや、それは少し重過ぎませんか?」
「彼は前世では、遊びふけって、寿命短縮30年の刑を受けています」
「それでもまだ更生の余地はあると思いますが・・・」
「そうですね。では、環境を変えてみましょう」
「桃に詰めて、別の世界に流してみましょう」
「いいですね。では、これにて閉会します」

 金太郎は、別世界で生まれ変わって、桃に詰められ川を流れていた。
 おばあさんが川に洗濯に行くと、川上から大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこと流れてきた。持ち帰って開けてみると、中から男の子が出てきた。桃から生まれたので桃太郎と名づけられた。
 桃太郎は犬、猿、きじを引き連れて、鬼が島に鬼退治に出かけた。鬼を退治して金銀財宝を手に入れた。その行為が、時空間管理局の防犯委員会で問題視された。

「暴力による略奪行為です。断じて許せません」
「まったくひどいものです」
「彼は二度の前世でも罪を犯し、処罰を受けています」
「生まれ変わっても、環境を変えても更生は無理だということですね」
「でも、もう一度だけチャンスをあげませんか?」
「しかし、これだけの悪事を働いて、無罪というわけにはいきません」
「では、人間ではなく別のものに生まれ変わるというのはどうでしょう?」
「いいですね」
「では、彼が虐待した鬼にしますか」
「よろしいですね。では、これにて閉会します」

 桃太郎は生まれ変わって、鬼が島で鬼として勤勉に暮らしていた。真面目に働いたおかげで財産も蓄えられた。時空間管理局も彼の更生に満足していた。
 そんなある日、鬼の仲間が血相を変えて叫びながら駆けて来た。
「桃太郎が攻めてきたぞ!」

                             了


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