Vol.79   2444年のオリンピック

「さて、次のニュースです。皆さんはオリンピックというものをご存じでしょうか?今から500年以上前から続いているスポーツの祭典です」
「スポーツって何ですか?」
「ああ、そこから説明しなければなりませんね。スポーツというのは、まあ体を動かすということです。どちらが早く走れるか競ったり、棒でボールを打って、決められたゴールに入れるのを競ったりすることです」
「何故そんなことをするのですか?」
「昔の人は適度に体を動かすことが健康につながると思っていたんですね。健全なる精神は健全なる肉体に宿るなどという思想があったようです」
「どうも分かりませんね。体を動かせば疲労がたまるだけですよね。栄養剤を飲んでいれば健康は保たれますし、万が一、病気になったら医者に行けばすむことですよね」
「正直なところ、私にも昔の人が考えることは分かりません。とりあえず、見てみましょう。4年に1度開催されているスポーツの祭典、オリンピックの2444年アテネ大会、男子100メートル競争です」
「・・・いかがでしたか?」
「何とも不思議なものですね。100メートルもの距離を何故、自分の足で歩かなくては・・・ああ、走るというのですね。急いでいるのなら車で移動すればいいと思うのですがね」
「確かにそうですね。えー、ちなみにこの競技で優勝したのはアメリカのジョン・ルイス13世選手で、記録は59秒88と、何と1分以内で自力で100メートルを移動したということになります」
「だから、それがどうしたということなんですがねえ」
「えー、次は水泳という競技です。誰が早く水の中を泳いで移動できるかという競技です。女子200メートル自由型です」
「・・・いかがでしょう?」
「あの水たまりにばい菌は入っていないのでしょうねえ」
「ええ、それは十分に消毒されています。ちなみに優勝したのは・・・まあ、どうでもいいですね」
「しかし、昔の人が考えることは本当に分かりませんね。それを現代の人がまだ続けているというのはどうなんでしょうね?」
「ええ、300年ほど前までは世界中の国から多くの人が参加して、テレビ中継では30%以上の視聴率もあり、大変な注目を集めていたそうです」
「今ではどれくらいの人が参加しているのですか?」
「15カ国、150人ほどの人が参加しています。テレビで取り上げたのは恐らくこの局だけでしょうね」
「ちょっと私には理解しがたいものですね」
「えー、他の競技もあるのですが・・・はい、もういいですね。では、次のニュースに移ります・・・」
 2444年、医学の進歩により不治の病は存在しなくなった。人の平均寿命は500歳を越えていた。機械に頼った人類の筋力は低下し、手足は退化して、異常に細くなった。脳は異常に発達し、頭部の大きさは2004年の2倍になっている。とてもスポーツなどできる体ではないのだった。

                             了


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