Vol.78   ジヌウンガレ

 今年も新人がやって来る季節になった。私の研究所には毎年、優秀な新人が入って来る。一流大学の大学院を主席で卒業した者の中から、更に選ばれた一名だけが、この研究所に入ることができる。今、働いている所員たちも皆超のつくエリートだ。
 世間にはあまり知られていないが、私たちの研究は科学の最先端として学会では注目を集めている。私たちの研究所に支援をしていることを公表して、株価が急騰した会社もある。分かる人は分かっているのだ。
「よろしくお願いします」
 緊張の面持ちで新人が挨拶にやって来た。彼も自分がどれだけ凄い所に入ったのかを分かっているのだ。
「ああ、しっかりやりなさい」
 私は優しく微笑んであげたが、この仕事はそんなに簡単なものではない。彼も数々の試練を受けることになるだろう。
 何せ私たちの研究所は、あのジヌウンガレを探しているのだ。この研究所に入って、はや三十五年、今や所長となった私が新人としてここに来たときから探し続けている。まだ発見されてはいないが、もし、発見されれば、世界が根底から変わることだろう。
「さあ、さっそく仕事にかかろうか」
 先輩所員が新人に声を掛けた。私に黙礼し、所長室を出て行った。私も小さく頷いた。優秀で経験も豊富な彼に任せておけば間違いはない。
 それから新人は、先輩職員のもと必死に仕事をこなしていた。よく頑張っていると思う。非常に優秀な人材だ。
「あの・・・」
 そして、ある日、新人が不安げな顔をして私のところにやって来た。
「何かね?」
 彼が入所して約一ヶ月。まあ妥当な次期だろう。
「非常に恥ずかしい質問だと思うのですが・・・」
 彼は明らかに戸惑っていた。まあ無理もない。
「こんなことを所長に訊ねるのは失礼かもしれませんが、先輩に聞いても答えてくれませんでしたので・・・」
「いいから言ってみなさい」
 先輩職員が彼の質問に答えられるはずはない。
「あの・・・ジヌウンガレって一体何なのでしょうか?」
 やっと決心したかのように、新人が言った。 「そうだなあ・・・」
 私はもったいぶって言葉を区切る。 「まあ、これから研究を続けていけば分かる。今はまだ君には理解できないだろう」
 そう、彼に理解できるはずがない。彼の質問に先輩所員が答えられるはずもない。何せ私でさえジヌウンガレが何か知らないのだから。

                             了


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