「立派な家だな」
今日はがっぽり稼げるかもしれない。俺は内心ほくそえんだ。
このところ不調続きだった。犬に吠えられたり、急に宅配便を届けに来たり、邪魔が入って商売にならなかったのだ。まったく泥棒家業も楽ではない。
気分転換にまったく土地勘のないところに来てみた。閑静な住宅街だった。高級住宅地というわけではない。ただ一軒だけ立派なお屋敷があった。
人のいる気配はない。俺もこの道何十年である。それくらいは分かる。あたりに人影もない。思いがけないチャンスだった。
これといった防犯設備もなく、ドアの鍵をいじっただけで中に入れた。今日はうまくいきそうな気がした。
しかし、立派な屋敷の割にはたいしたものがない。分厚い本がずらりと並ぶ大きな本棚がいくつもあった。学者の家なのだろうか。それ以外はテレビやステレオにしても特に豪華というわけ
でもなかったし、普通の家具類が並んでいるだけだった。
寝室で金庫を見つけた。俺はやっと宝にありついた気がした。中には通帳や株券、宝石などが入っているに違いない。
ダイヤルを回し、金庫を開けた。単純な作りだったので1分もかからなかった。さあ、中にはどんなお宝が入っているのだろうか。
しかし、中から出て来たのは古ぼけたカメラが1台だけだった。
仕方なく、そのカメラを持ち帰った。もしや骨董品として大変な価値があるのかと少し期待して質屋に持って行ったが、まったく値段にならないと言われた。
フィルムが入っていたので適当に撮影して、現像してみた。
「おや」
写真を見たが、何かおかしい。近所の風景を撮っただけだが、確かに場所はあっているのだが、人がいなかった道に人の姿が映っていたり、様子が違う。
「そうか」
俺はある可能性に気がついた。もしかしたら、これは未来を写すカメラなのかもしれない。だとすれば儲ける方法はいくらでもある。やつもそれで大儲けしたのかもしれない。
新聞のナンバーズの当選発表欄、競馬場、競輪場の掲示板を撮影した。そこに写っていた番号を買った。しかし、当たらなかった。
「あっ」
いろいろと調べた結果、分かった事実に俺は落胆した。
「これは先週の結果だ」
過去が写るカメラだったのだ。
「こんなもの何の役にも立たねえ」
カメラは即座に燃えないゴミ捨て場行きとなった。
その頃、カメラを盗まれた男は途方に暮れていた。彼は考古学者だったのだ。
了