Vol.66   座敷ぼっこ

「おう、みんな、よく来たな。こんなじいさんの話しが面白いかい?」
「そうかい。そうかい。じゃあ今日も面白い話しをしようかねえ。そうじゃなあ。何の話しがいいかね。座敷ぼっこの話しは知っているかい?」
「そうかい。じゃあ、座敷ぼっこの話しをしようかね。不思議な妖怪の話しじゃよ」

 子供たちが遊んでいた。同じ学校に通う仲間同士だから、もちろんお互いのことをよく知っていた。今日はその仲間のうちの1人の家に皆で集まっていた。
 そのうちのお母さんがおやつを持って来てくれた。丸い大きなお饅頭だった。皆に配ったが、一つ足りなかった。
「あれ、おかしいねえ」
 お母さんは首をかしげる。確かに6個持って来たはずだった。
「1,2,3,4,5,6・・・7」
 子供たちの数を数えた。7人いた。
「あれ、7人・・・」
 子供たちはいつも6人で遊んでいた。今日も間違いなく6人だったはずだ。
 子供たちも不思議に思った。いつも一緒に遊んでいる仲間なのだ。今日もいつもの6人が集まっている。
「よっちゃんに、ふみちゃんに、こうちゃん・・・」
 1人づつ確認してみたが、誰もがいつもの仲間だった。知らない子が混ざっているわけだはない。しかし、いつもは確かに6人なのだ。今日、遊び始めたときも確かに6人だった。

「そんなとき言うんじゃよ。座敷ぼっこが現れたと。座敷ぼっこはそうやって人に紛れ込んでしまう妖怪なんじゃよ」

 子供たちは気味悪くなり、おやつをもらい損ねた子は泣きべそをかいていた。
「大丈夫だよ。座敷ぼっこは悪いことはしないから」
 お母さんは子供たちをなだめ、慌ててもう1つ饅頭を取りに行った。
 子供たちは気を取り直し、外に出て遊ぶことにした。
「何して遊ぶ?」
「かくれんぼ」
「うん、そうしよう」
 子供たちはかくれんぼをして遊ぶことにした。1人が鬼になって、他の6人が隠れた。
「もういいかい?」
「もういいよ!」
 しかし、いくら待っても鬼が探しに来ない。最初はうまく隠れたと思い、嬉しくて笑いをかみ殺していたが、あまりに時間がかかり過ぎるので不安になった。
 遂に全員が見つかりもしないのに出てきてしまった。鬼がいなくなってしまったのだ。
「でも、誰が鬼をやっていたんだっけ?」
 6人は必死になって考えたが、誰がいなくなったのかまったく分からなかった。

「そんなとき言うんじゃよ。ああ、やっぱり座敷ぼっこだったんじゃと。座敷ぼっこは知らぬ間に紛れ込み、知らぬ間にいなくなってしまうんじゃ」
「ああ、ばあさんがおかしを持って来てくれたぞ。さあ、食べなさい」
「おや、おかしが足りないかい?おかしいねえ。ちゃんと6人分・・・」
「えっ、7人いるって。そうじゃなあ。7人いるなあ」
「今日は誰か新しい子が来ているのかい?」
「そうじゃよなあ。いつもの6にんじゃよなあ」
「さては座敷ぼっこが出たかな」

                             了


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