Vol.55   スーパーマン

「助けてー!」
「あっ、あの高層ビルで火事だぞ!」
「凄い煙だ!」
「窓から人が助けを求めているぞ!」
「早く消防車を呼べ!」
「あんな高いところにハシゴが届くのか?!」
「でも、とにかく119番を・・・」
「あれは何だ?!」
「鳥か?」
「飛行機か?」
「いや、人だ」
「人が空を飛ぶわけがないだろう!」
「いや、やっぱり人だ!」
「もしかして、いや、そんな馬鹿な・・・」
「あれはコミックの話しだ。まさか実在するはずがない。でも、やっぱり・・・」
「あれは、スーパーマンだ!!」
 人々の驚きを尻目に、スーパーマンはさっそうとビルの窓に近づき、次々と人々を助け出した。
「あなたはスーパーマンですか?」
 野次馬の一人が尋ねたが、スーパーマンはただニッコリと微笑むと、飛び去って行った。
 人々は我が目を疑った。しかし、その後、スーパーマンは各地に出現し、危機に陥った人々を助け、悪者を退治した。
 すぐにマスコミが騒ぎ出した。あの男は一体何ものなのか?テレビや週刊誌、新聞で毎日のようにスーパーマンのことが取り上げられた。
 日本人離れした端正な顔立ちと、がっちりした筋肉質の体型で、スーパーマンは女性たちの憧れの的となった。男たちもスーパーマンの強さに、ただただ驚嘆した。
 スーパーマンはマスコミの執拗な取材に対して何も語らなかった。それでも、彼が宇宙から地球の危機を救うためにやってきたのだという説を否定もしなかったから、スーパーマンは宇宙から来たスーパーヒーローだという説が定着した。
 約1年の間、スーパーマンは各地で、正義を助け、悪を挫き続けた。その活躍ぶりは、まさに正義のスーパーヒーローだった。
 そしてある日、スーパーマンがテレビのインタビューに初めて答えた。流暢な日本語だった。
「私は、皆さんのご想像通り、遠い星から地球の危機を救うためにやって来ました。しかし、お別れのときがやって来ました。私の故郷と地球では環境が違います。私の体は徐々にむしばまれています。今後も皆さんのお役に立ちたいという思いはありますが、これ以上、地球に留まると、私の命に関わります」
 人々はスーパーマンとの別れを惜しんだ。しかし、事情が事情だけに、送り出さないわけにはいかなかった。
「スーパーマン、お元気で!」
「今までありがとう!」
「あなたのことは決して忘れません!」
「これからは私たち自身で地球を守っていきます!」

 故郷に戻ったスーパーマンは、地球でむしばまれた体を休め、すっかり回復した。いつまでもフラフラしているわけにもいかず、スーパーマンは新しい仕事を探すため、職業安定所を訪れた。
「えーと、今までの職歴は・・・地球というのはどんな星ですか?」
「そうですか、そんな遅れた星で活躍したといっても何の実績にもなりませんね」
「力は・・・100万馬力、時速300キロで空を飛ぶ。うーん、どれも平均以下ですね」
「年齢的にいっても再就職は難しいんじゃないでしょうか・・・」
 スーパーマンは故郷の星では、普通のリストラおやじだった。

                                  了


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