Vol.54   学校の階段2

 学校の階段には怪談がつきものだ。冗談でも何でもない。階段から落ちて亡くなった生徒が幽霊になって出るなんて話しは、いろいろな学校にある。そんなに生徒が死亡する事故が起きているとは思えないのだけど。
 僕が前にいた学校にも階段にまつわる怪談は存在した。この学校にも階段の怪談があるかどうかは分からない。だって、まだ転校してきて3日目なのだから。父親の仕事の関係で小学校に入ってから2度目の転校だった。転校が好きな子供などいないだろう。僕ももちろん好きではないが、前回よりも慣れた気がする。だから新しい学校にも、そんなに違和感は感じなかった。
 でも、こんな遅い時間に階段を登るのはもの凄く嫌だった。ただ、明日提出しなければならない宿題の教材を机の中に忘れてきてしまったのだ。家に帰って、すぐに宿題をやろうと思えばよかったのかもしれない。でも、見たいテレビがあったのだ。宿題に手をつけようとしたのは夕食が終わって、お風呂に入った後だった。
 それにしても学校の階段は、どうしてこんなに薄暗いのだろうか。もっと明るくしておけば怪談話しももっと少なくなるかもしれない。まあ、夜、学校の階段を昇り降りする必要は本当はないのだから、明るくする必要はないのかもしれないけれど。
 いつまでも怖がって立ち止まっているわけにはいかない。僕はゆっくりと階段を登った。何事も起きなかった。そうだよ。幽霊なんているわけがない。
 教室に入り、机の中から教材を取り出した。再び階段を降りる。やはり幽霊は出なかった。実は僕自身が幽霊だったなんて出来の悪いショート・ショートにありがちな落ちでもない。僕は無事に家に帰り、ちゃんと宿題をやった。
 次の日、学校に行って、不思議に思った。昨日の夜、昇ったはずの階段が取り壊されていたのだ。ロープが張ってあり、立ち入り禁止と書いてあった。そう言えば、いつもは反対側の階段を昇っていた。今朝もいつものように反対側の階段を昇り、そう言えば昨夜昇ったのは違う階段だったと気がついて、見に行ってみたのだ。
「ねえ、あそこの階段、いつから取り壊されているの?」
 僕はクラスの子に聞いてみた。
「ああ、もう1ケ月くらい前かな。お前が転校してくる前からだよ」
 彼が言うには、欠陥工事なのか、突然、階段のあちこちに穴が空いてしまったそうだ。予算の関係で、工事が出来ず、1ケ月も放ってあるそうだ。
「階段にしてみれば化けて出たい心境だろうな」
 彼は冗談で言ったのだろうが、僕は笑えなかった。だって、僕は昨夜、その階段の幽霊に出会ってしまったのだから。

                                  了


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