Vol.53   学校の階段

 学校の階段には怪談がつきものだ。冗談でも何でもない。登るときは十二段で、降りるときは十三段ある階段だとか、誰でも学校の階段にまつわる怪談の一つや二つは知っているはずだ。この学校の階段にも語り継がれている怪談が存在する。
 だから僕はこんな遅い時間にこの階段を登るのはもの凄く嫌だった。でも、部活で遅くなった。野球部の一年生である僕は、球拾いしかしさせてもらえないが、ボールを一つでもなくすことは許されない。なかなかボールの一つが見つからず、ようやく見つけたときはもう9時近かった。先輩はとっくに帰っていたし、同級生もそそくさと帰って行った。僕も帰ろうとしたときに、明日のテストのためにどうしても今日、家で予習しておかなければいけないノートを教室に置いてきてしまったことに気づいたのだった。教室に戻るには、この階段を通るしかなかった。
 この階段から落ちて、ある生徒が首の骨を折って亡くなった。これは事実あったことだ。そして、この階段にはその生徒の幽霊が出るという噂があった。
 僕は見たことはないから信じてはいなかった。それでも怖いものは怖いが、ノートがなければ、下手したら落第してしまう。どうしても取りに戻らなければならないのだから、覚悟を決めた。
 それにしても学校の階段というのはどうしてこんなに薄暗いのだろう。こんなだからありもしない怪談話しがされるようになるのだ。
 僕はゆっくりと階段を登った。何事もなく進んだ。あと三段も登れば階段は終わる。やはり幽霊なんているわけがない。その時・・・。
 階段の向こうから生徒が走り降りて来た。僕は心臓が飛び出るほど驚いた。しかし、何のことはない。その生徒は同じクラスの山田だった。
「何だ。脅かすなよ。まだ残っていたのか」
 僕は驚きを悟られないように山田に話しかけた。幽霊が出るという階段にびびっていると思われたくなかったのだ。
 しかし、山田の方が僕以上に驚いたようだ。僕の声など耳に入っていない様子で、真っ青な顔をしていた。明日、学校で山田の驚きぶりを皆に話してやろう。きっと大笑いになるだろう。僕はそう思った。

 次の日、山田はクラスの皆に話していた。「昨日の夜、あの階段で凄いものを見ちゃったよ。ほらあの野球部の丸山君。階段から落ちて首の骨を折って死んだ子。あの子の幽霊を見ちゃったんだ」

                                  了


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