「山崎勉です。よろしくお願いします」
転校生はものすごく緊張していた。僕は転校の経験はないけれど、そりゃあ、いきなりまったく知らないところへいって、まったく知らない人たちの中に入っていかなくてはならないのだから緊張するだろう。
みんなも、興味深々で見つめている。これも無理のないことだ。転校生が来るなんて、小学生の僕らにとっては、これ以上ないビッグイベントなのだから。
でも、僕はみんなとは違う。ただ面白がっているわけにはいかない。転校生がうまくクラスの仲間になれるようにフォローしてあげなくちゃ。僕は学級委員なのだから。
「先生、ここが空いています」
僕は手を上げて、自分の席の横が空いていることを先生に告げた。この席に座っていた子は3ケ月前に事故で亡くなったのだった。不幸な出来事だった。
「そうだな。じゃあ遠山の横の席に座りなさい」
先生も僕の意見に賛成してくれ、転校生が僕の隣の席についた。
「遠山昭だよ。学級委員をやってます。よろしくね、山崎くん」
僕は笑顔で転校生にあいさつをした。さりげなく、彼の名を呼んであげた。山崎くんも笑顔を返してくれたが、まだその笑顔はこわばっていた。
「教科書はまだ持っていないだろ」
僕は言われる前から、山崎くんが教科書を持っていないことに気づき、机をつけて、見せてあげた。学級委員として新しいクラスメートの面倒をみるのは当然のことだ。
「僕のクラスは勉強の成績もスポーツも学年で一番なんだ」
休み時間、僕は山崎くんに積極的に話しかけた。彼のことを知ると同時に、彼にも僕のクラスのことを知ってもらいたかった。
僕のクラスは何事においても学年で一番だった。学級委員として誇りに思っている。山崎くんにも、その優秀なクラスの一員として頑張ってもらいたい。
僕のサポートのかいあって、山崎くんは徐々にクラスに馴染んでいった。そして初めての試験があった。隣の席を見ると、山崎くんは苦心しているようだった。転校して間もないのだから無理はなかった。
僕はそっと答案用紙を山崎くんの席の方に置き、彼が見えるようにした。気がついた山崎くんは、ちょっと戸惑った顔をしたが、僕の答案用紙を覗き込み、答えを書いていた。
テストに結果は、山崎くんもいい点数が取れて、僕のクラスはまた学年で一番になった。学級委員として鼻が高い。
そして今度は運動会の季節になった。
「僕は走るのはすごく得意なんだ」
すっかり打ち解けた山崎くんが笑顔で言った。前の学校ではリレーの選手だったという。運動会でも一番にならなくてはいけない僕のクラスにとって、とてもいい情報だった。
実際、体育の授業で徒競走をやったところ、山崎くんはクラスで一番早かった。学年でも一番早いだろう。運動会でもリレーはメインの競技だ。彼は大きな戦力だった。
運動会当日、各種目が順調に終わり、残すはクラス対抗リレーだけとなった。僕のクラスは現在2位だったが、点差は僅かで、リレーに優勝すれば、1位になれる。アンカーは山崎くんで、優勝は間違いないところだった。
「ヨーイ、ドン」
リレーが始まった。僕のクラスは順調にトップを走っていた。バトンが僕に渡った。僕も山崎くんには適わないが、足には自信があった。さらに差を広げて、アンカーの山崎くんにバトンを渡した。
山崎くんは独走した。僕のクラスの優勝はもう目の前だった。ところが、ゴール直前、山崎くんが転んだ。そしてその隙に他のクラスの選手がゴールしてしまった。僕らのクラスは2位になってしまった。
「困るんだよ。僕のクラスが2位だなんて」
僕は山崎くんを屋上に呼び出した。学級委員として、時には文句も言わなくてはならない。
「ごめん、ごめん」
「ごめんで済む問題じゃないだろ。君のせいで僕のクラスは2位になったんだよ」
「でも、仕方ないじゃないか」
山崎くんは分かっていないようだ。僕のクラスは常に1番でなければいけないのだ。
「君は分かっていない」
「何がだよ。おい・・・」
僕は山崎くんを屋上から突き落とした。学級委員としてクラスのためにならない人は排除しなければならない。
「大川陽一です。よろしくお願いします」
転校生はものすごく緊張していた。
「先生、ここが空いています」
僕は手を上げて、自分の席の横が空いていることを先生に告げた。この席に座っていた子は3ケ月前に屋上から飛び降りて自殺したのだった。不幸な出来事だった。
了