「やだ。これって心霊写真じゃない」
彼女と見ていたのは、この間、ドライブに行ったときの写真だ。何処かの公園だった。記念碑の前で一緒に写真を撮ったのだ。
「汚れじゃねえのか」
記念碑の脇に黒い影が見える。丁度、俺の肩のあたりだ。
「子供の顔に見えるでしょ」
よく見れば、記念碑から子供がちらっと顔を出しているようにも見えなくはない。しかし、俺は心霊の類に遭遇したことがなかったし、信じてもいなかった。
「気のせいだよ」
写真自体が汚れているのかもしれないし、光の加減で顔らしき形のものが写ってしまったとか、理由はいくらでも考えられる。
「何だか気味が悪いわ」
彼女はまだ気にしていたが、俺は取り合わなかった。
それから何事もなく1週間が過ぎた。俺は写真のことなどすっかり忘れていた。友達が遊びに来て、お互いのガールフレンドの話しになった。この間の写真を見せた。
「おい、これって心霊写真じゃないか」
彼女と記念碑の前で撮ったあの写真だった。
「お前まで変なこと言うな」
二人の人間が同じことを言ったので、俺は少々気味が悪くなった。
「よく見てみろよ。子供の顔だぜ」
そう言われてみれば、そう見えないこともない。それは分かっていた。
「俺はそういう話しは信じないんだ」
でも、やはり気のせいだろう。気にしないことにした。
とはいうものの、俺は気になって、幼なじみで一番の親友に相談してみた。
「ここは小学校の時、遠足で行った公園だな」
彼の答えは意外だった。彼女と行った公園は、俺たちが小学校のときに遠足で行った場所だというのだ。そんなことはすっかり忘れていた。
俺は小学校の卒業アルバムを引っ張り出してみた。ページをめくると、遠足の写真もあった。確かにあの公園だった。
「懐かしい写真だな」
何年振りかで取り出した写真が懐かしく、俺たちはアルバムに見入った。
「おい、これ・・・」
友人が真剣な顔で言った。卒業間近に撮ったクラスの集合写真が開かれていた。この撮影の時に欠席していたのだろう。写真の隅に一人の少年の顔写真があった。もう名前も覚えていないが、確かにこんなクラスメートがいた。大人しくてあまり目立たない少年だったと思う。一緒に遊んだ記憶もあまりなかった。
「この顔・・・」
友人が彼女と俺のスナップ写真を指差す。
「あっ」
俺も思わず声を上げた。写真にあった子供の顔のような影が、あの卒業写真の隅の少年の顔に見えたのだ。
「こんなことって・・・」
さすがに薄気味悪くなった。
「そういえば遠足のとき・・・」
そして俺は思い出した。遠足のとき、彼とかくれんぼをしたことを。他にも何人かいたと思うが、確か、今ここにいる友人はいなかったような気がする。
普段、一緒に遊んだこともないような少年と何故このとき、かくれんぼをすることになったのかは覚えていなかった。
そういえば、あのかくれんぼの結末はどうなったのだろう?あの遠足以降、少年に関する記憶がまったくなかった。
「まさか・・・」
俺は部屋を飛び出した。友人がポカンとした表情で俺を見送っていた。
車を飛ばし、俺は公園にやって来た。あのかくれんぼで、例の少年を見つけられなかったのではないかという気がしたのだ。彼は今もこの公園に隠れている。そして写真に写ってしまったのだ。馬鹿げた考えだとは思ったが、妙に気になってしまった。
恐る恐る記念碑の裏を覗いてみた。
驚きで心臓が飛び出しそうだった。あの少年がいた。
「あっ、見つかった」
少年が笑顔で言う。
「じゃあ、今度は君が隠れる番だよ」
少年はそう言い残し、何処かに走り去った。
急に辺りが真っ暗になった。変な空間に迷い込んでしまったようだ。大声を出そうが、返事はなかった。いくら走ろうが、辺りは一面の闇だった。俺は途方に暮れて座り込んだ。
それから何時間が過ぎただろうか。もう時間の感覚はなくなっていた。不思議と喉も渇かなければ、腹も減らない。眠くもならなかった。
何処からかアベックの声が聞こえた。声のした方を見ると、暗がりの中、薄っすらとあの記念碑が見えた。
記念碑の影から覗き込むようにしてみると、向こう側でアベックが記念撮影をしていた。
「おい」
いくら話しかけても、アベックは気づかなかった。
俺は叫んだ。
「早く俺を見つけてくれ」
何処かでシャッターをきる音が聞こえた。
了