Vol.31   流れ星

「どうしたんだい?眠れないのかい?」
「うん、そうなんだ」
「今日は、パパも、ママもお出かけだから、寂しいのかい?」
「そうじゃないんだよ、おばあちゃん。ただちょっと悔しいことがあったんだ」
「へえ、何があったんだい?」
「さっき、空を見ていたら、流れ星が通ったんだよ。でも見とれていたら、願い事をするのを忘れちゃったんだ」
「そうかい。でも、それはいい事をしたんだよ」
「えっ、どうして?」
「それはね・・・。それじゃあ、流れ星のお話しをしてあげようかねえ」
「うん、話して」
「お星様はね、とても長生きなんだよ。おばあちゃんだって、お星様の年齢では、赤ん坊のようなものなんだよ・・・」

 お星様は1万歳になると小学校に入学し、2万歳になると卒業します。私たちには気が遠くなるくらい長い年月ですが、お星様は動きがとてもゆっくりしているので、そんなに長く感じないのです。
 お星様も、学校でいろいろな事を勉強します。算数や理科、体育の時間もあるし、給食も食べます。夏休もあって、お父さんやお母さんと旅行に出かけたりします。
 テストだってあるし、通信簿もあります。ちゃんと勉強をして、いい成績を取らないとお父さんとお母さんに叱られます。
 小学校を1番優秀な成績で卒業したお星様は、遠い所にある別のお星様の国に留学する決まりになっています。もっといろいろな物を見て、たくさんの知識を得るためです。
 卒業式の後、友達や先生、お父さん、お母さんに見送れて、遠い国に旅立ちます。いつもはゆっくりしているお星様ですが、このときだけは目にも止まらないような早さで走っていきます。これが流れ星なのです。
 ただ成績が良いだけではだめです。長い旅をするわけですから、健康でなくてはなりません。走るのが早いことも大事です。どんな友達とも仲良くして、もちろん弱い者いじめなどしてはいけません。お父さんやお母さんの言うことを良く聞いて、そういう本当に良い子が流れ星に選ばれるのです。
 だから、流れ星になるのは、とても名誉なことなのです。みんなの期待を受けて、お星様の代表として旅立つのは気分のいいものです。見知らぬ国で、新しい生活が待っているというのは、とてもワクワクします。
 でも、仲の良い友達や、お父さん、お母さんと別れなければならないのは、本当は悲しいことです。どんなに優秀だといっても、まだ小学校を卒業したばかりなのですから。
 だから、流れ星に選ばれたお星様は、1つだけ、願い事をかなえてもらうことが出来る約束になっています。
 お星様の神様は、太陽です。太陽はどんなことも出来ますから、流れ星が無事に、遠い国に着いたときには、どんな願いでもかなえてくれるのです。
 ところが、お星様はとても心優しいので、遠い国に旅している途中で、人間が願い事をしているのを聞いてしまうと、自分の願い事など放り出して、旅の途中で聞こえてきた人の願いをかなえてもらえるように、太陽に頼んでしまうのです。
 流れ星に3度願い事をとなえると、お星様の耳に届きます。お星様は、気持ちよくその願いを聞き入れてくれます。でも、友達やお父さん、お母さんと別れて、悲しい思いをする代わりに、かなえてもらえるはずの自分の願い事は、太陽に伝えられなくなってしまいます。

「ふーん。だったら、願い事なんて、しなくて良かったよ」
「そうだよ。お星様がかわいそうだからね。でも、願い事って何だったんだい?」
「それは秘密だよ」
「そんなこと言わないで、教えておくれよ」
「じゃあ、おばあちゃんにだけは、教えてあげる。絶対に他の人に言っちゃだめだよ」
「パパとママにも秘密かい?」
「うん、そうだよ」
「ああ、分かったよ。誰にも言わないよ」
「あのね・・・」
「そうかい。でもね、お星様に頼らなくたって、いい子にしていれば、願い事はかなうもんなんだよ」
「・・・」
「おや、眠ってしまったのかい?」
「・・・」
「おやすみ。いい夢を見るんだよ」

                                  了


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