Vol.26   小説の書き方教えます

 小説家でもない私が小説の書き方なんてものを語るのはおこがましい気もするんですが、まあ私は物を書くプロとも言えますし、いろいろな方から良く聞かれることなので、ちょっとお答えしたいと思います。
 初めに断っておきますが、小説の正しい書き方なんてものはないんです。そんなものがあるのなら私がその通りに小説を書いて小説家になっています。(笑)
 小説家というと皆さん、好きなことを書いて印税をがっぽりもらって、こんないい商売はないと思っておられるんでしょうが、実際はそうでもないらしいですよ。締切に追われるし、書く内容についても様々な規制があるし、楽な商売ではないようです。小説家を目指す人に対する第一のアドバイスは、そんな馬鹿なこと考えるのはよしなさいです。(笑)
 でも、まあ、それでは話しにならないので、とりあえず私の考えを述べておきましょう。先程も言いましたが、これが正しい小説の書き方というわけではありません。私はこう思うよというだけのことです。皆さんなりに考えて、納得がいったことは取り入れる。これは違うなと思ったら、自分のやり方を通してもらって構いません。そんなつもりで聞いて下さい。
 小説を書くために一番重要なのは想像力です。小説というのは言ってみれば作り話ですから。(笑)
 ここに鉛筆があるとします。ただ鉛筆があるな。1本あるな。短い鉛筆だな。HBだな。なんて思うだけでは駄目です。それは見たことをただ考えているだけです。もっと想像力を働かせて下さい。鉛筆が机から転がり落ちたらどうなるか?床を転がった鉛筆を可愛い女の子が拾って、鉛筆の持ち主の男の子と目が合い・・・なんて考えると恋愛小説になります。死体が折れた鉛筆を握りしめていたとすれば推理小説になります。もっと言えば、鉛筆が動いたり、言葉を喋ったりすれば・・・。
 今は人間の世界を例にとって話しています。彼らは自分たちが見ていないときに鉛筆が喋っているなんて知りませんから、鉛筆が喋ると考えればSF小説が書けます。私たち文房具の世界では鉛筆が喋るなんて考えても小説にはなりません。鉛筆である私がこうして喋っているわけですから。(笑)
 鉛筆が喋り、ボールペンが、万年筆が、メモ用紙が、その話しをじっくりと聞いている。あっ、蛍光ペンは退屈で居眠りしているようですが。(笑)
 文房具が動き、言葉を喋り、笑って、怒って、泣いて、寝てなんてことをしているとは、人間は想像しないわけです。我々、文房具が人間の見ていないところで繰り広げていることは、彼らにしてみればまさにSFの世界なんですね。私たちにとっては日常の生活を描写するだけでも、人間が思いついたとしたら立派な小説になるんです。
 分かりますか。ほんのちょっと想像力を働かせて物事を見るだけで、誰でも小説を書くことが出来るんです。
 どうしましたか?消しゴムさん。えっ、消しゴムである自分はいくら想像力を働かせたところで物を書くことは出来ないって。それはまあ、確かにそうですねえ・・・。

                                  了


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