大山真治は高校2年生。部活動もしていない、いわゆる帰宅部で、かといって友達と何処かに寄り道をする約束もなかったので、今日は1人で駅のホームで電車を待っています。
トントンと背中を叩かれたような気がして後ろを振り向きました。しかし、そこには誰もいませんでした。気のせいかな−−真治はそう思ってまた前を向きました。
トントン−−また背中を叩かれて真治が振り返りました。先程より少し強く叩かれた気がします。それに2度目ですから、気のせいではないと思うのですが、後ろには誰もいませんでした。同級生がいたずらしているのかと思い、辺りを見回しましたが、それらしい姿は見えません。
「おかしいな」
真治はそうつぶやいて、また前の方を向きました。
トントン−−さらに強く背中を叩かれました。もう気のせいであるはずがありません。すぐに振り向きましたが、誰もいませんでした。
電車がホームに入って来るのが見えました。さすがに気味が悪くなってきた真治はホッとしました。早く家に帰りたい。そう思いました。
そのとき、今度は前よりももっと強い力で背中を押されました。
「ワーッ!」
真治はその勢いに驚き、恐怖の叫び声を上げながらホームに落ちてしまいました。丁度、電車が真治の目前に迫っていました。
「ニュースをお伝えします。今日午後4時頃、高校生が電車に身を投げ、自殺しました。山下真治君はごく普通の少年で、都内の私立高校の2年生でした。両親や友達は自殺の理由が見当たらないと、突然の出来事に大きなショックを受けています。目撃者の証言によると、彼は突然叫び声を上げながらホームに入って来た電車に向かって飛び込んだということです。
了