Vol.22   神様の贈り物

「まったく何で記念すべき2000年の年明けを会社で迎えなくちゃならないんだい」
 コンピューターの2000年対応で、システム・エンジニアという職業柄、そうならざるを得ないことは分かってはいるものの、世間ではミレニアム・イヤーなどと浮かれているのだから嘆きたくもなるものだ。
 2000年問題とは、コンピューターは年数の下2桁で処理を行っていた。以前はコンピューターの性能が今ほど良くはなく、4桁でデータを持つことは大変な負荷になったからだ。そのため1999年から2000年になると、コンピューター上は99から00になるわけで、1900年なのか2000年なのかコンピューターが判断できずに誤作動を起こすという問題だ。
 今や、あらゆるものがコンピューターで制御されている。そして世界中でデータのやり取りが行われている。それだけに影響も大きいというわけだ。
「そんなもん、直せばいいんじゃないの」
 知らないやつらは気楽に言うが、実際にコンピューターに関わっている者としてみれば、そんなに単純なことではない。この1年、この問題に対応するために血のにじむような努力をしてきたのだ。それでも何の問題も起きないと断言することは出来ない。実際のところ2000年になってみなければどうなることやら誰にも分からないという状態なのだ。
 だからこそ、こうして正月返上で、新年を会社のコンピューター室で迎えようとしているわけだ。
 まあ、実際のところ、小さな問題はいくつか起こるだろうが、コンピューターが動かないとか、データがグチャグチャになって使いものにならないとか、それ以前の問題として電気が止まるとか、水が出なくなるとか、そうした大きな問題は起きないだろうとは思っている。だから、こうして不満をもらしたくなるわけだ。
 そうこうしているうちに、いよいよ2000年の年明けが近づいてきた。俺は多少、気を引き締めて時計を見つめた。23時59分57秒、58秒、59、ゼロ。
 しかし、2000年は訪れなかった。時は1900年に戻ってしまったのだ。
「ありゃ、神様、1900年に戻ってしまいましたよ」
「何だ、2000年対応してなかったんだっけ」
「そのようですね」
「まあ、地球は最近変な方向に進んでいるから、もう一度、1900年からやり直させてみるか」
「そうですね。今のままでは、人類滅亡もそう遠い将来のことではなかったでしょうから、もう一度やりなおすチャンスをやりましょう」
 そもそも天上界では、2000年対応はなされていなかった。

                                  了


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