Vol.21   美容院に行けなくなる話

 初めてパーマをかけに行った。男はパーマなんてかけるものじゃないと思っていたが、大学入学が決まって少し色気が出て来たのだ。
 池袋の美容院に行った。もちろん美容院に行くのも初めてだ。近所の美容院は、近くを通ったときにガラス越しに中の様子を窺ったことがあるが、女の客ばかりで入りにくかった。この美容院は男性客と女性客の階が別れており気が楽だ。だから電車で2駅ほど乗って、ここまで出て来たのだ。
 決して最初から期待していたわけではないが、この店の何よりもいいことは美容師が全員、女性であるということだ。そして俺を担当してくれた女の子はかなりの美人だった。近所の床屋のおやじに頭をいじられるより、例え営業用のスマイルとはいえ、ニッコリと微笑む美人の方がいいに決まっている。
 まず俺が戸惑ったのは、頭を洗うときだ。今まで行っていた近所の床屋では、前にかがみ込んで頭を洗っていたが、美容院では後ろにのけぞって頭を洗うらしい。美容院の女の子と目が合って、どこを見ていいのか困ってしまったが、顔にタオルをかけてくれたのでホッとした。
 美容師の女の子が腕で俺の頭をささえながら洗ってくれる。非常に気持ちがいいものだ。おまけに彼女の胸が俺の顔にかなり接近しているのが、かけられたタオル越しに感じられて、ドキドキした。これはもう絶対に美容院だなと俺は思った。
 しかしながら、この態勢はまったくの無防備である。俺は咽のあたりにピッと走るような痛みを感じた。そして視界が赤く染まった。顔にかぶせられていたタオルが俺の血で染まったのだ。
 俺は薄れていく視野の中でぼんやりと、美容師の女の子が血まみれのカミソリを持ち、ケタケタと笑っている姿を見た。

                                  了


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