Vol.20   狂った時間

 時間は気が狂った。狂った時間には何の存在理由もない。秩序を失った時間は、しかし自分ではそのことに気づいていなかった。
 だから時間は存在理由もなしに存在し続けた。おかげで誰もが迷惑を被った。
 会社が終わり、家に着いたとたんに朝になった。朝、目が覚めたとたんに夜になった。夜が明けたとたんに昼になった。
 しかし、依然として時間は、自分が狂ったことに気づいていなかった。それは時間が常々自分こそが世界の秩序であると思いこんでいたからかもしれない。
 午前一時の次に午後三時になり、その次に午前六時になった。
 時間は依然として気が狂っていた。そしてだんだん自分の狂気に気づくようになっていた。しかし、その考えを必死に否定していた。
 めまぐるしく時が流れた。一転して、ほとんど止まったかのようにスローモーションになった。コマ送りになった。逆戻りした。
 そして遂に、時間は自分が狂っていることを自覚してしまった。秩序を失った自分に何の存在理由もないことに気づいてしまった。
 時間は自殺した。時の流れが止まった。世界は凍り付いたように止まって、二度と動かなかった。

                                  了


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