Vol.14   夢で逢えたら

 俺と本郷は仲が悪い。もっともやつを嫌っているのは俺だけで、やつの方では、俺のことなど気にもしていないかもしれない。やつは頭は悪いくせに、スポーツ万能で、かっこいい。学校中の女の子にキャーキャー騒がれている。まさに人気アイドルだ。対する俺は、やつに優るのは成績だけ、だからといって、ずば抜けて頭がいいわけではない。クラスでも中位の成績だ。まったく目立たない存在である。女の子の人気もない。
 そんなことを日頃から面白くなく思っているからだろうか。ある晩、俺は本郷をぶっ飛ばした夢を見た。夢の中の出来事ながら、俺は日頃の鬱憤を晴らした気がして、気分爽快に目覚めた。
 学校に行ってみると、やつが右目の回りに青あざを作ってやって来た。俺は少し驚いた。夢の中で俺が殴ったのと同じところだったからだ。
 たちまちクラスの女の子が本郷を取り囲み、質問責めにした。やつは苦笑いしながら、夕べ寝ていたら、右目のところにガンと痛みが走ったので、起きて鏡を見たら、あざになっていた。たぶん何かが落ちて顔に当たったのだろうと答え、たいしたことはないから心配いらないと付け加えた。
 その日の夜も俺は本郷の夢を見た。やつを階段から突き落とした夢だ。今度は自分が情けなくなった。背後から突き落とすなんて卑劣である。やつに劣等感を持っているからこんな夢ばかり見るのだ。
 学校に行くと本郷の姿がなかった。先生がやって来ると、たちまち女の子たちが、やつがどうして休んでいるのか質問した。先生は、本郷が昨夜、階段から落ちて、足を骨折したのだと答えた。女の子たちは「えー、かわいそう」などと一騒ぎした後、見舞いに行く相談を始めた。
 俺はいささか気味が悪くなった。俺の見た夢の通りになってしまったのだ。
 夜になった。俺はなかなか寝付かれなかった。偶然だとは思うが、気味が悪い。もう変な夢は見たくない。しかし、それでも俺はいつのまにか眠りに落ちた。
 そして夢を見た。俺は果物ナイフで本郷の心臓をグサリと突き刺した。
 俺は驚いて飛び起きた。とても目覚めが悪かった。もう朝になっており、もう一度寝直す気にはなれなかったので、いつもより早く学校に出掛けた。
 やがて朝のホームルームの時間になった。本郷は来ていない。担任の先生が入って来た。様子がいつもと違う。生徒も先生の雰囲気を察したのか、いつになく静かだ。俺は顔から血の気が引く思いだった。
 先生が静かな口調で、明け方に本郷の家に強盗が入り、本郷は強盗に刺されて、亡くなったことを告げた。クラスの女の子たちが泣きわめいた。
 俺は帰宅して。部屋に入り、制服のまま、ベットに寝ころんだ。嫌な気分だった。自分の手で本郷を呪い殺したような気がした。
「キャー!」キッチンの方から、おふくろの叫び声が聞こえた。俺は慌てて飛んで行った。
「どうしたの?」
「いや、リンゴを剥こうと思ったら、ナイフに血がべったりついていたのよ・・・」

                                  了


BACK