Vol.7   ノアの飛行機

 200X年9月1日、14時25分、ノースウエスト航空ボーイング707便が突然消息を絶った。乗客の中には27人の日本人観光客も含まれていた。
 その後の調査により、同機は予定のコースを大きくそれて、北朝鮮の領空内に入り、そこでレーダーからの反応が消えたことが分かった。
 米ソの冷戦、湾岸危機も集結し、今や世界の悪役として有名な北朝鮮のことであるから、このニュースは一瞬にして世界の世論を賑わせたが、同日18時35分、アメリカ防衛庁より同機は北朝鮮の空港に強制着陸させられたと発表があった。心配して駆けつけた日本人乗客の家族も、とりあえずは安心した。
 しかし、19時50分、北朝鮮がそのような飛行機は領内に存在しないと発表した。すぐにアメリカも前言を取り消した。そして707便は空中爆発した可能性が強くなった。
 翌2日、アメリカ政府は、機は北朝鮮によって撃墜されたと発表し、厳しく責任を追求することを断言した。日本でも、ようやく夜になって、官房長官が会見を開き、北朝鮮に厳重注意すると発表したが、相変わらず対応が遅いとの非難を受けた。
 北朝鮮は、そのような事実はないことを強調し、逆にいわれのない疑いをかけられるのは遺憾であるとの意見を述べた。
 翌3日、平壌で抗議デモを行ったアメリカ人グループが逮捕されるという事件が起こった。アメリカ政府は彼らの釈放を要求したが、北朝鮮はこれに応じなかった。
 この処置に激怒したアメリカ政府は、彼らの救出のため戦闘機を北朝鮮に向けた。しかし、その戦闘機が北朝鮮のミサイルによって撃墜されるという事態になった。遂に国連軍が組織され、北朝鮮に派遣された。主導しているのはもちろんアメリカ政府で、女性問題のスキャンダルにより支持率が低下している大統領が人気回復のためにとった措置だった。
 北朝鮮は、アメリカ政府と国連軍の武力行使には屈しないとし、徹底抗戦の構えを見せた。そして遂に戦争に突入した。
 さて、ノースウエスト航空ボーイング707便は本当に北朝鮮によって撃墜され、海の藻屑となっていたのだろうか。いや、そうではない。実は異次元空間に紛れ込んでいたのだ。
 そんなことを考えていたのはSF作家とSFファンくらいなもので、実態を知らない国連軍と北朝鮮の戦闘は激化の一途をたどった。
 戦争は長引いた。北朝鮮は徐々に窮地に追い込まれていった。国連軍と北朝鮮の軍事力を比較すれば十分に善戦したといえるだろう。そして遂に北朝鮮は核兵器の使用に踏み切った。やはり北朝鮮が核を保有しているというのは真実だったのだ。報復としてアメリカも核ミサイルを発射した。人類は破滅へのスタートボタンを押してしまったのだ。
 世界に降り注いだ核ミサイルは人類を滅亡させただけではなく、空間をゆがませ、さらに時間をも吹き飛ばした。
 その衝撃で、異次元空間に迷い込んでいたボーイング707便は1万年後の地球に姿を現した。空港があるべき場所がただの野原になっていたから、パイロットは戸惑ったことだろうが、無事に着陸に成功した。
 文明も放射能汚染もすっかりなくなったこの地球で、彼ら乗客と乗務員によって、人類の新しい歴史が始まる。

                                  了


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