久し振りに降り立った駅は、かつて住んでいた街だった。
駅前のロータリーは人が多かった。沿線で有数のターミナル駅で、いつも混んでいた。ふと見ると、以前ミスタードーナツだったところが神戸屋に変わってた。神戸屋のクロワッサンは絶品だけれど、ここのミスドは想い出の店だったのだ。
晴れたのは本当に久し振りで、けれど暑くはない日差しはどこかやわらかかった。並木通りを過ぎ、高架の下をくぐり、なだらかな丘を登った。この辺は高級住宅街で、マンションも多かった。南東の方に住んでいたのだが、ここは北西の方で、あまり来たことがなかった。住んでいた辺は団地群が広がり、高校や果樹園などもあり庶民的だった。
マンション群を抜けると、東名川崎インターが見えた。そこから尻手黒川道で、しばらく歩いた。
午前中は将来のための活動をして、午後は出かけることにした。歩くために出かけるのは久し振りで、前回冬に歩いた時にはまだ会社を辞めるつもりはなかった。でもそれからすぐ辞めることにしたので、そんな日々を葬り去るためだ。
やがて登戸方面へと道を折れ、交差点を麻生区方面へと曲がった。午後の日差し。緑なす木々のざわめき、時折通り過ぎる青色のバス。この街に住んでいた頃、先輩の車に乗せられて同じ風景を眺めた。同期達と海辺へ行く時や、後輩が迎えに来てくれた時も、それに仕事で自分用の車で、この辺はよく走った。
丘の上に立つと、貯水池があった。その上はすべて空だった。まだ暮れる前の青空が広がっていた。風が通り過ぎ、音が止まった。芝生とそよぐ水と、広いグランドがあった。なにもかもが穏やかだった。
新百合ヶ丘に着いた。数年前、後輩がレストランのパンフ作成一式を受け持ち、お礼にご馳走になったことがあった。課員全員でワゴン車に乗ってここまで来た。たった数年前。それからいろいろなことが変わった。
本屋でドラゴンアッシュの記事と椎名林檎の振り向くショットを見た。あのワゴン車の後輩達と彼らのことを話していた時、まだ両方とも売れる前だった。
CDを見ていた時、最もかっこいいエンディングと思っていた曲の名が、「やつらの足音のバラード」だと分った。そう、やつらの足音のバラード。まったく、ぴったりじゃないか。
電車に揺られて帰った。やつらは、まだ遠くにいる。