New Wave
             Xtc / Black Sea (1980)  
   『 ニューウェイブの海へ 』

 

 ロックがパンクという劇薬を得て、次のステップへと突入していた80年、まさにニューウェイブへの橋渡しとして現れたアルバム。ここでXTC&プロデューサーのスティーブ・リリーホワイトが作り出した音世界は、そのまま後に現れるニューウェイブ・バンド群の、一つの典型にまでなってしまった。

 最初期からポスト・パンクの音作りで注目を集めていた彼らが、そのポップ性に斬新な音処理を施し、リリーホワイトと組んで初のシングル・ヒットを放ったのが前作 「ドラムス・アンド・ワイヤーズ」だった。今作はそこからリズムを大幅に強化し、ハード・エッジなギター中心に、非常に研ぎ澄まされた音処理を している。ポップ性も更に増し、ソリッドな音のクリアーさは今聴いてもほんとにかっこいい。

 ポップなメロディ、エッジの効いたギター、乾いたドラム音、ざらざらした質感。数え切れないくらいのバンドがこの手法をそのまま使っているのを聴くたび、今作がいかに当時の(特にポスト・パンクな)リスナーやミュージシャン達に大きな影響を与えたかが分る。

 この後、XTCはより緻密で凝ったポップ世界に進み、リリーホワイトはプロデューサーとしてU2のファースト・アルバムをダイナミックなロック・サウンドに仕立てて世に送りだす。この、ギターの残響と爆撃ドラム音を持ったニューウェイブの典型は、83年のU2 「WAR」で一つの完成型を見ることになるが、その時XTCはまた違った音世界にいることになる。

 奇抜なアイデアや斬新な音処理に、ライブ感と躍動感溢れるリズムを盛り込み、それらが一体となって一枚のアルバムになったことは、実は稀にみる幸福な出来事だったのかもしれない。彼らはこの後も完成度の高いアルバムを量産するにも関わらず、シーンとの関係性でこのアルバムを越えることは、残念ながらなかった。ファンにはそれが伝説であるけれど、まだ世界に向けて十分に攻撃的で、嬉々として演奏していた姿が、ここにはある。