The Smiths / Rank (1988)
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ジョニー・マー脱退によるバンドのなし崩し的解散、その後に出された、唯一のライブ・アルバム。彼らの特徴が、次々と繰り出されるシングルの切れと、ライブでの圧倒的なパフォーマンスであった以上、最後のアルバムとしてこのライブ演奏が選ばれたことは、半ば必然であったのかもしれない。 最高傑作と誉れ高い4thアルバム「クイーン・イズ・デッド」発表後の、まさにバンド絶頂期に録られたライブ。ここでは初期の拙さや抑揚のなさは完全に消され、荒々しくもギター中心の楽曲が躍動する。そしてその演奏を凌駕するモリッシーの歌声。流麗なギターサウンドを一瞬で別の何物かに変えてしまう、異様なマイノリティさと陶酔感。 過剰な自意識や徹底した「意味のなさないもの」への攻撃は、突出した異端児としてシーンに晒され、それゆえ特異な存在としてスミスは君臨した。しかし絶大な負のパブリストとしてではなく、力強いロックの基盤の上にたつものだったスミスの音は、逆に英ロック・シーンの一つの時代を締めくくる、正統的にロックを受け継ぐものだった。 あともう少し活動を続けていてくれたら、という願いなど簡単に吹き飛ばす、異様に拡大された自己の痛みと、それを凌駕する音と攻撃性。徹底した弱者への救済と、ネガティブでしかなかった自分自身への呪縛を解き放ち、まったく別の陶酔を呼び起こしてすべてを昇華させる、美しい暴力性。 未だ誰も到達しえない世界。たった一人で別の地平に立つ、スミスが孤高の存在であり続けることを証明するのは、このアルバムだけでも十分である。
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